全 情 報

ID番号 03186
事件名 分限免職処分取消請求事件
いわゆる事件名 北九州市病院局長事件
争点
事案概要  地方公営企業たる病院の大幅な赤字、経営悪化のためその再建計画の一環としてなされた炊事員等過員となった者に対してなされた分限免職処分の効力が争われた事例。
参照法条 地方公務員法28条1項4号
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1982年1月27日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (行ウ) 15 
昭和43年 (行ウ) 16 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集33巻1号66頁/時報1055号137頁/訟務月報28巻5号1022頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 地公法二七条二項は、職員はこの法律で定める事由による場合でなければその意に反して免職されない旨定め、同法二八条一項四号は、職員の降任又は免職事由の一として定められているが、同号にいう「定数の改廃」がいかなる法形式で定められなければならないかについては、同法上何らの定めがない。そうして、地方自治法一七二条三項に「職員の定数は、条例でこれを定める。」と規定されていることからすれば、一見「定数の改廃」は条例で定めることが要求されているごとくである。しかし、他方、市町村の職制についてみれば、同法一五八条七項が「市町村長は、その権限に属する事務を分掌させるため、条例で必要な部課を設けることができる。」とし、地公企法一四条が「地方公営企業を経営する地方公共団体に、管理者の権限に属する事務を処理させるため、条例で必要な組織を設ける。」としているものの、同法九条一号は「その権限に属する事務を分掌させるため必要な分課を設けること」を地方公営企業管理者の担当事務としている。したがって、条例で基本的な行政組織が定められた場合にも、管理者は管理規程を制定してそれ以下の内部組織を定めることができるのであるが、管理者が管理規程でその内部組織を定めた場合において、これに職員を配置するには必らず条例の定めによらなければならないとは到底解せられないから、管理者は、管理規程自体において内部組織の設置とともにこれに配置すべき職員の職種、定数等をも定めることができるものというべく、管理者が管理規程をもってその内部組織への職員定数を設定又は変更したような場合には、地公法二八条一項四号にいわゆる「定数の改廃」にあたると解するのが相当である。原告らの右「定数の改廃」は条例をもって定められるべきであるとの主張は、地方公務員の身分保障の趣旨を分限免職事由策定の手続面において徹底させようとするもので傾聴に値するけれども、後述のとおり、分限免職処分権濫用の判断にあたっては、当局側において、右処分を避けるための措置を講じたか否か、被処分者等を納得せしめるに足りる手段(団体交渉)を尽くしたか否かなどがその要素として検討されなければならないところ、これは分限免職処分実施の手続面において地方公務員に対する身分保障の趣旨を反映させたものというべく、企業管理者の管理規程をもってする職員定数の変更が分限事由としての「定数の改廃」にあたると解したとしても、必らずしも地方公務員の身分保障に欠けることにはならないと解される。
(中略)
 地公法二八条一項四号による分限免職処分は、同項一号ないし三号の場合と異なり、被処分者になんらの責に帰すべき事情がないにもかかわらず、その意に反し任命権者の一方的都合により、被処分者及びその家族の生活の基盤を根底から破壊するものであり、また、地方公務員については、現行法上争議行為が禁止され、私企業におけるのとは異なり人員整理に対する労働者側からの重要な対抗手段を欠いていることを考えると、任命権者が、必要やむをえず地公法二八条一項四号に基づく免職処分をしようとする場合においても、処分対象者の生活の維持に配慮し可能な限り配置転換その他免職処分を回避するための措置を講ずべきである。そして、配置転換等が比較的容易であるにもかかわらずこれを考慮しないで直ちに分限免職処分をした場合には、その処分は、手続上の合理性を欠き裁量権の濫用として違法となるものと解するのが相当である。