全 情 報

ID番号 03190
事件名 損害賠償請求控訴事件/同附帯控訴事件
いわゆる事件名 航空自衛隊事件
争点
事案概要  航空自衛隊所属のF-86ジェット戦闘機が攻撃訓練飛行中に、火災警報灯が点灯したため搭乗員が緊急脱出したが高度不足のため落下傘が開ききらないうちに海上に墜落して死亡した事故につき遺族が国を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1982年3月24日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ネ) 2410 
昭和55年 (ネ) 982 
裁判結果 棄却
出典 労働判例383号38頁/訟務月報28巻11号2075頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 右のように飛行中火災警報灯が点灯したことから火災警報装置自体の故障(作動する理由がないのに作動する。)といういわば形式的故障のみならず、ホットエア洩れという実質的な故障の発生したことが一応推定されるとしても、そのことから直ちに右故障の発生が飛行前の本件事故機に対する管理即ち点検整備の不十分さに由来し、ないしは信義則上の義務である安全配慮義務の違反があるものと断定することは相当ではない。
 たしかに、本件の如き航空機事故において、被害者側にさらにその個別、具体的な事故原因の主張、立証まで要求することは、それが高度の専門的知識を要する分野であること、一般に事故原因の調査資料が被告の掌中に独占され公開されるものでないこと等に鑑みれば公平を失するのではないかという見解もありえようが、しかし弁論の全趣旨から明らかなように、本件の場合は、墜落によって機体が海中に没し、引揚が不可能なため故障ないし事故原因の正確な調査が控訴人においても不可能なのであるから、控訴人としても個別、具体的な事故原因について適切な防禦方法を講じ得ないこと、しかも一般に、極めて高度な精密構造を持つ航空機の特殊性からして、現代の科学技術水準からみて必要かつ十分な点検整備を遂行しても、なおかつ予測しえない偶発的な、あるいは、不可抗力ともいうべき障害の発生がありうるのであり、そしてまたなんらかの原因でなんらかの航行上の障害が発生したとしても、緊急脱出装置のある本件事故機のような場合にあっては、その障害が空中において瞬時ないしは対策を講ずる暇もなく爆発するといった類の事態に直ちに結びつくような場合はともかく、そうでないかぎりは、右の障害が直ちに墜落による死亡事故を生ぜしめるものとはいえず、高度に訓練を受けたパイロット(本件の場合、高瀬が飛行経験からしてベテランに属するといえることは、<証拠略>によって明らかである。)の適切な操縦ないし脱出行動によって右事故の発生を未然に防止しうる余地が十分にある場合のあることに照らせば、前記の如き被害者側の控訴人に対する責任追及の困難さの故をもって、障害の発生即点検整備の不十分、ひいては、安全配慮義務違反がある等と推論することは著しく妥当性を欠くものといわざるをえないのである。