全 情 報

ID番号 03270
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 北島自動車学校事件
争点
事案概要  八分間の技能教習時間を欠略したことを理由とする自動車教習所の指導員に対する諭旨解雇の効力および右解雇処分を不服として処分書の受領を拒否したことを理由とする懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 1980年10月1日
裁判所名 徳島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ヨ) 146 
裁判結果 却下
出典 時報990号247頁/労働判例353号53頁/労経速報1075号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 本件欠略の存在が明白なものであることは前示のとおりであり、右欠略(少なくとも八分間)が、教習時間の確保という、債務者のような指定自動車教習所にとって経営上も極めて重大な問題に係わるものであり、債権者の主張するような、ささいなものでないことは既に明らかであるから、右欠略は右就業規則第五〇条第九号にいう業務上の義務違背・業務懈怠に該当するものというべきである。
 そこで、債権者の本件欠略に対する態度、前示欠略発見後の債務者の対応をみるに、債権者からは債務者に対する事実の申告、弁明を進んでしたことはなく、また、債務者としても昭和五四年八月二八日の八月分給料支払日まで、本件欠略について債権者の弁明を求めず、あらためて他の従業員らから事情聴取等をすることもしないで、右八月分給料から一時間分の時間外手当を控除したことは当事者間に争いがないところ、債権者は、このことをもって、債務者が意図的に期間を置いて債権者の事実調査の機会を奪ったものと主張するが、前示のとおりの校長Aの入院と同校長の指示、また、本件教習のあった同年七月二一日は、まだ夏期一時金闘争の最中であって、七月分給料日の前日に至ってやっと妥結したことなど前示経緯に鑑みれば、債務者の右所為も首肯するに足り、債権者の主張は当たらない。更に債権者は、債務者が前記理由書を目して本件欠略を否認する虚偽申述ととらえたことの不当を主張するが、前示のとおり本件欠略は債務者代表者及び専務佐藤将春が現認し、これに対し再教習の実施等の措置までとっている明白なものであるのに、債権者は単に、自己の記憶にない、当該教習生や他の従業員に聞いてみても欠略の存在は判然としなかったことのみを根拠として、そして、自分が債務者から意図的に攻撃されているかの如き被害意識を抱いて、右理由書により断定的に本件欠略の存在を否定し、その態度は一貫して今日に至っているものであり、債権者の右欠略否認の行為が、債権者自らの欠略の記憶ないし事実を故意に隠ぺいし、明らかに作為・虚偽のものとするに足りる資料はないけれども、特段の事情のないかぎり故意・虚偽の否認と推定されることもやむをえない状況にあり、債務者がかかる債権者の態度を、ことさら欠略の事実を否認するものと判断したこともそれなりに首肯し得るものである(校長Aが債権者に、始末書にはありのままを書いたらよいではないかと話したことも、右Aの証言によれば、右のような断定的否認を容認する趣旨のものではなかったと推認される。)うえに、少くとも、万一の自己の欠略を謙虚に反省し、前示法令上の教習時間の厳守方について債務者の危惧・不安の念を払拭し、相互の信頼感が失われることのないように誠実な対応を示して事態の解決を図るべきであったのに、前記のように欠略の事実を断定的に否定する態度を一貫してとりつづけてきた以上は、もはや債務者の従業員としての債権者の身分を維持すべき信頼関係は、債権者の責により著しく損われたものというのほかない。
 そうすると、債務者においても内部で種々協議を重ねながら債権者に対応して前記諭旨解雇に至った等前判示の諸経緯に照らして考えるならば、債務者が本件欠略の重大性及び債権者のこれに対する態度に鑑み、最終的には債権者の身分を失わせる解雇の懲戒処分に付したこと自体は相当であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものであるとはいえない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 ところで、債権者が債務者会社の創業以来約一五年にわたり同社に勤務してきた者であることは当事者間に争いのないところであり、債務者代表者の供述によれば、同社では諭旨解雇の場合はなお退職金が支払われるのに対し、懲戒解雇の場合はそれがないことが疎明され、右事情をも斟酌すると、債権者が諭旨解雇の懲戒処分に不服を唱え、その懲戒処分書の受領を拒否したからといって(債権者が諭旨解雇に同意しなければ右処分の効果が発生しないという事情は疎明されていない。)本件欠略を理由として懲戒解雇処分に付することは、債権者にとり酷に過ぎるものというべく、本件解雇は社会通念上著しく妥当を欠くもので、解雇権を濫用してなされたものであり、本件解雇は無効というべきである。