全 情 報

ID番号 03271
事件名 地位保全等仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 阪奈中央病院事件
争点
事案概要  タイムカードの不実記入、無断欠勤等を理由とする看護婦見習の解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1980年10月6日
裁判所名 奈良地
裁判形式 決定
事件番号 昭和55年 (ヨ) 108 
裁判結果 認容
出典 労働判例357号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 欠勤・遅刻等に関しては、就業規則上、事前又は事後の届出を行なうこと及びこれらの事由の多い者に対しては減給措置がとられることがあることの各定めがあるに止まり(二四、二五条)、年間一四日以上の理由なき欠勤に至らぬものについては、右減給の他、何らの制裁を課しえないものと解される。(このほか、三八条の懲戒にあたりうる場合もあろうが、本件では右規定は全く根拠とされていないから問題外である。)
 また一九条(2)の右一四日の欠勤についても、その規定は従業員たる身分を失わせる規定であるから、軽々しく認定・解釈することは許されないものというべきであり、例えば年間許容日数一四日を、労働者の稼働月数割で算出し、右を前提とすれば年間一四日を超えうる、とするような思考方法は論外といわなければならない。結局仮に債権者の欠勤日数が債務者主張のとおりであったとしても、右一事をもってしては正当な解雇の理由とはならない。
 (中略)
 確かに、タイムカードの不実記入は、社会的ルールに反し、悪意に解釈すれば債務者主張のように給料の不正入手を図るものと考える余地があるほか、行為者に対する信頼を損う事由となりうるものである。しかしながら、債権者は、その年令・社会経験等からして未だ精神的に十分な発達を遂げている者とは考えられないのであるから、このような者を雇用する側としては、ある程度の寛容をもって被用者の指導にあたるべきことが期待され、懲戒を行うについても、就業規則に定めるもののうち、譴責から減給へ、減給から出勤停止へと軽度のものからより高度のものへ、段階を踏んで右権利を行使する配慮が要請されるものというべきところ、右不実記入につき、債権者に対しては未だ正規の譴責段階も履践されていないこと前記のとおりであるから、右事由を解雇の段になって主張すること自体、過酷にすぎるものと判断される。
 よって、本件解雇は、解雇権の濫用であり、無効と判断される余地も多分に存するから、本案判決の確定に至るまで、従業員としての地位を仮に定めることを求める債権者の申請には理由がある。