全 情 報

ID番号 03277
事件名 地位保全仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 ラジオ関東事件
争点
事案概要  民間の放送会社で約一八年間アナウンサーをしてきた女性をアナウンス業務と関係のない業務局編成業務部へ配転したことにつき右配転命令の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1980年12月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ヨ) 2312 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報1000号121頁/タイムズ430号55頁/労経速報1072号11頁/労働判例355号15頁
審級関係 控訴審/00315/東京高/昭58. 5.25/昭和56年(ネ)48号
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 一般に労働契約の締結において、労働者は企業運営に寄与するため、使用者に対して労働力を提供し、その使用を包括的に使用者に委ねるのに対し、使用者はその労働力の処分権を取得し、その裁量に従い、提供された労働力を按配して使用することができるものである。このことは、すなわち、当該労働契約において特に労働の種類・態様・場所についての合意がなされていない限り、これらの内容を個別的に決定し、抽象的な雇用関係を具体化する権限は使用者に委ねられており、使用者は右権限に基づいて、労務の指揮として、自由に具体的個別的に、その内容を決定することができる。配置転換等の人事異動は使用者の有する右のような権限に基づく命令であり、それは、使用者が先に自らが決定していた労働契約の具体的個別的内容を一方的に変更する行為ということができ、その意味において、一種の形成行為と解するのが相当である。従って、当初の労働契約において、労働の種類・態様・場所についての合意がなされている場合は使用者たる会社のなす配置転換の命令は、労働者に対して、当初の契約変更の申入れであり、当該労働者の同意がなければ、その効力を生じないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、申請人が会社に雇用される際に会社の課した採用試験が、会社のアナウンサー採用のための試験であり、その試験に合格し、本採用の決定に至るまでの申請人に対する講習等の実態を併せ考えると、申請人が会社に雇用される際の労働契約締結にあたって、会社に対し、アナウンサーとしての業務以外の業務にも従事してよい旨の明示または黙示の承諾を与えているなどの特段の事情が認められないかぎり、申請人は、会社との間で、アナウンサーとしての業務に従事するという職種を限定した労働契約を締結したものと認めるのが相当である。そして、本件の全疎明資料を検討しても、申請人が右労働契約締結の際に会社に対し、アナウンサーとしての業務以外の業務にも従事してよい旨の明示または黙示の承諾を与えているなどの特段の事情は認められない。そうすると、申請人がその後個別に承諾しないかぎり、申請人は、会社に対し、アナウンサーとしての業務以外の業務に従事することを命ぜられたとしても、申請人において右命令に同意しないかぎりその命令に従うべき労働契約上の義務を有しないものといわなければならない。