全 情 報

ID番号 03310
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 航空自衛隊第八航空団事件
争点
事案概要  戦闘機による訓練中の緊急脱出にさいしての墜落死亡事故につき、国に安全配慮義務違反があったとして損害賠償請求を認容した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1979年9月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 6243 
裁判結果 一部認容・棄却(控訴)
出典 時報949号78頁/タイムズ402号112頁/訟務月報26巻1号68頁
審級関係 控訴審/東京高/   .  ./昭和54年(ネ)2410号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 本件全証拠を検討するも、エンジン系統の火災もしくはホット・エアー漏れがいかなる原因によって発生したかを確定することはできないが、本件の如き航空機事故において、被害者側にさらにその個別、具体的な事故原因の主張、立証まで要求することになれば、それが高度の専門的知識を要する分野であること、事故原因の調査資料が被告の掌中に独占され一般に公開されるものでないこと、特に被告は自衛隊機の管理にあたるものとして、その安全性を確保するため、事故原因につき常に多方面からの調査検討をなすべき立場にあることからして公平を失するものというべきであり、本件事故が機体の枢要部で、被告が全面的に管理し点検整備義務を負うべきエンジン系統に火災が発生したか、ホット・エアー漏れが生じたためであると推認される以上、立証の公平の見地から、被告において本件事故機につき十分な点検整備を行ったにもかかわらず、右事故の発生が予見し得ない偶発的な原因に基づくことの立証が尽くされない限り、事故機の点検整備を十分に実施すべき安全配慮義務の違反があったものと推定するのを相当とする。
 しかして、弁論の全趣旨によれば、F-八六F機保有部隊では、F-八六F機につき、飛行前点検、基本飛行後点検、定時飛行後点検、定期検査等被告主張の如き所定の点検整備を行って飛行の安全確保に努めており、搭乗員自らも飛行に先立ち、定められた点検項目につき確認のうえ搭乗しており、本件事故機についても同様の点検整備が行われていたことが認められ、また、〈証拠略〉によれば、本件編隊が攻撃態勢に入る前に行った計器盤の点検の際には、特に事故機は異常を訴えていなかったことをそれぞれ認めることができるが、一方、その後、エンジン部の火災を誘発するような外的原因が発生したことは認めることができず、また、本件の如く機体の枢要部であるエンジン部分に直ちに墜落事故につながる火災もしくはその危険性が発生したものとされる事態のもとでは、右火災もしくはその危険性を招来した個別、具体的な原因が確定され、且つ、それが以上に述べた機体の点検整備体制のもとで予見することが不可能なものであることを確定し得ない以上、その点検整備が十分に行われたにもかかわらず本件事故の発生が予見不可能な偶発的原因に基づくものであることの立証が尽くされたとは言えない。
 従って、被告は本件事故について、前記安全配慮義務違反の責任を免れず、右事故による原告らの損害を賠償すべき義務がある。
 なお、原告は、Aの装着した落下傘は、被告がその点検整備を十分に実施しなかったため、全く開かなかったものである旨主張するが、弁論の全趣旨によれば、本件の落下傘についても、被告主張のとおりの点検整備が実施され、その段階で特に不具合は発見されなかったことを認めることができ、また、前掲各証拠によれば、(一)事故後、落下傘の紐が伸び切った段階で落下傘の本体から分離されるクォーター・バッグ(落下傘の紐を収納する袋)は回収されているが、他に落下傘の付属品は全く回収されていないことから、少なくとも高瀬の装着した落下傘の紐は一応伸び切ったものと推測されること、(二)一番機に搭乗し同訓練に参加していたB編隊長は、事故直後、事故機の墜落現場付近に、ほぼ八分開きの状態で漂流している落下傘を目撃していることが認められ、これらの事実からすれば、Aの装着した落下傘は、クォーター・バッグに収納された紐がほぼ伸び切り、かなりの程度まで開傘したものであるが、僅かの高度不足のために、完全には開ききらなかったものと認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
 従って、落下傘の点検整備についても被告に安全配慮義務の違背がある旨の原告らの主張は採用できない。
 三 損害