全 情 報

ID番号 03334
事件名 給料請求控訴事件
いわゆる事件名 此花電報電話局事件
争点
事案概要  電々公社の職員が有給休暇を請求して休暇をとったのに対して、公社が右請求を認めず欠勤扱いとし欠勤分の賃金をカットしたケースで、右カット分の賃金が請求された事例。
参照法条 労働基準法39条3項
労働基準法2章
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行
裁判年月日 1978年1月31日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ネ) 654 
裁判結果 (上告)
出典 労働民例集29巻1号11頁/時報880号11頁/労働判例291号14頁/訟務月報24巻1号93頁/労経速報981号3頁
審級関係 上告審/01361/最高一小/昭57. 3.18/昭和53年(オ)558号
評釈論文 後藤清・労働判例301号4頁/溝渕良一・地方公務員月報184号51頁/秋田成就・昭和53年度重要判例解説〔ジュリスト693号〕233頁/早稲田大学労働法判例研究会・早稲田法学54巻1・2合併号217頁/郵政省人事局労働判例研究会・官公労働32巻7号46頁
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 使用者が法三九条三項但書所定の事由の存在を理由として労働者の請求した日の有給休暇は承認しない旨の意思表示をしたときは、使用者の時季変更権の行使にあたることはいうをまたない。本件においては、前記(一)の事実によると、被控訴人らの所属する此花局電報課において時季変更権行使の権限を有していたA課長は、本件各年休請求に対し、事業の正常な運営を妨げるおそれのあることを理由として請求にかかる日の年休を承認しない旨の意思表示をしたのであるから、右意思表示をもつて控訴人の時季変更権の行使がなされたものとするのが相当である
 (中略)
 右の「事業の正常な運営を妨げる」か否かは当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである。
 これを本件についてみると、前記(一)の事実によれば、控訴人の此花局電報課では午前九時から午後五時までの日勤帯の業務の処理については、業務繁忙期でない通常の時季において、受付通信係に少なくとも二名、配達係の「外配」担当に少なくとも三名の係員を配置することが必要であり、この配置人員数を欠くときには受付通信係では受信作業又は客からの受付事務が停滞し、配達係では遅配が生じるので、同局における他の種別の担当職員の代行がない限りは、その業務の正常な運営に支障が生ずるものと認められる。ところが、右事実によると、被控訴人らが年休の時季を指定した昭和四四年八月一一日、同月一八日、同月二〇日には、被控訴人Y1が請求どおりの年休をとると、受付通信係において同月一一日午後一時から同三時までと同四時三〇分から同五時まで、同月一八日午前九時から午後三時までいずれも係員が一名だけとなり、被控訴人Y2が請求どおりの年休をとると配達係の「外配」担当において同月二〇日午前一〇時から午後〇時まで係員が二名だけで、しかもうち一名は職員に比して多少事務能率の低いと思われる臨時雇になるのであるから、いずれも代行者の配置がない限りは業務に支障が生ずることは明らかである。ところで、前記三の事実によれば、控訴人においては、労使間の協約により交替服務者が休暇を請求する場合は原則として前前日の勤務終了時までに請求するものとする旨定められており、右の定めは、控訴人においては二四時間を通じて緊急性を有する業務の特殊性から二四時間勤務を確保するため、服務の種別、時間による各人の予定を予め服務計画を作成して明らかにし、各人の勤務割を指定することになつていて、労使間の協約によつて、個個の職員に対する勤務割を変更する場合には、控訴人は前前日の勤務終了時までならば関係職員に通知するだけで足りるが、それ以後、前日又は当日にこれを変更するには本人の同意を要する旨定められていたところから、前日又は当日における代行者の配置は極めて困難であることが予想されるので、前前日の勤務終了時までに年休請求を行うことによつて代行者の配置を容易ならしめ、もつて時季変更権行使をできる限り不要ならしめようとの配慮から定められたものと考えられる。したがつて本件においては、被控訴人らの各年休請求が右定めに反し、休暇日当日になされたものであつて、前記の労使間の協約からみて代行者の配置は困難であつたと考えられるから、右各年休請求については、控訴人の事業の正常な運営に支障を生ずる場合に該当するものといわざるをえない。
 (中略)
 年休の時季指定には、年休を必要とする事由を申出ることが要件ではないことはもとよりであるが、前記(一)の事実によると、本件では被控訴人らは、前前日の勤務終了時までに年休請求をすることとの定めに違反して当日に請求したものであり、このような場合には、右規定どおりに請求しえなかつた事情を説明するため年休を必要とする事由をも明らかにするならば、これによつて前記の労使間の協約に基く代行者の同意をとりつけることも可能となるから、このようにして明らかにされた事由の緊急性、重大性の如何によつては時季変更権を行使せずにこれに対し年休を付与するのが相当である場合がありうるし、事業の正常な運営に多少の支障を生じてもなお所属長の権限により年休を付与しうる場合もありうるのであるから、A課長が右判断の資料を得るため被控訴人らに対して右事由を質したことはもつともである。これに対し被控訴人らが前記請求時期に関する規定に違反しながら、その事由をも一切明らかにしない態度に出たのであるから、前記のとおり代行者の配置の困難が予想される以上、事業の正常な運営に支障を生ずる場合に当るとして、時季変更権を行使されてもやむをえないものというべきである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕
 有給休暇としての病休は、被控訴人の就業規則により始めて認められたものであるから、その効力発生要件については就業規則の規定の解釈によるべきものであるが、その解釈に当つては、単に形式的な規定の文言のみならず、その解釈運用に関する労使間の労働協約やその運用の実態、従来からの労使間の慣行等をも十分しんしやくしてこれを決すべきものである。
 前記の事実によると、被控訴人Y2は右病休請求当日は頭痛、発熱のため就労困難であつたものと認められ、かつ、その請求手続も従前からの同職場における病休請求の運用の実態からみて特段変つた方法によつたものでもなく、しかも当日はB係長が不在であつたA課長に代わつて病状等について具体的な説明を受け、その結果病気であることを確認して服務予定および出勤簿に病休としての処理をしたことからみて、同係長も同被控訴人の病気による就労不能を認めてその扱いをする意思であつたことがうかがわれ、このような場合には従前からA課長においても同係長の判断を尊重して診断書等の証明書の提出がなくても、自ら病気を証明して病休の承認をするのが通例であつたのであるから、本件においては、病休請求に関する実体的要件のみならず、請求者の側に関するかぎりその手続的要件も具備していたものといわなければならない。A課長が二日以内の病休請求についてその証明者でありかつ承認の権限をも有しているからといつても、右病休制度の趣旨、運用の実態からみて、その権限の行使はもとより恣意的になされることは許されないのであるから、前記の要件が具備する場合には証明および承認をすべきものである。そうであれば、たとえA課長においてあえて証明および承認行為を行わなくても、そのことの一事をもつて病休が成立しないと解するのは妥当でない。けだし直属上長の証明および所属長の承認の制度は、職員が病休制度を乱用することを防止するための制度であるから、その制度の解釈運用に当つては、その制度が設けられた趣旨の範囲内で病休成立に及ぼす影響力を判断するのが相当であるからである。したがつて本件においては、被控訴人Y2の病休請求はその効力発生要件を具備したものとして、病休としての効力を生ずるものというべきである。