全 情 報

ID番号 03338
事件名 地位保全等仮処分申請却下決定に対する抗告事件
いわゆる事件名 理想社事件
争点
事案概要  出版会社に勤める従業員が沖縄返還協定締結反対の集会に参加しその後行われたデモ行進に際して兇器準備集合罪等により逮捕され後日懲役八カ月、執行猶予二年の刑に処せられたことを理由として、違反行為時とは異なる新就業規則に基づいて懲戒解雇されたケースでその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法第2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 政治活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
裁判年月日 1978年2月22日
裁判所名 東京高
裁判形式 決定
事件番号 昭和51年 (ラ) 860 
裁判結果 抗告棄却(特別抗告)
出典 時報882号109頁/労働判例301号78頁
審級関係 一審/東京地/昭51. 7.20/昭和50年(ヨ)2291号
評釈論文 小西国友・ジュリスト732号149頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-政治活動〕
 特別の定めのないかぎり、一般に、解雇などの意思表示は、意思表示の時点に規律さるべき手続に従ってすれば足りるから、本件では、本件解雇の意思表示をなした時に施行されていた新規則に従って解雇の意思表示をすればよく、したがって本件では、新規則に従ってなした本件解雇の意思表示は、手続的に違法とはいえない。 他方、懲戒は、労働者にとって不利益な処分であるから、特別の定めのないかぎり、問題とされている行為の時を基準として、懲戒権存否の有無を決すべきであるということも、当然、是認されてしかるべき要請である。その意味では、一般的に、問題となっている行為の時に施行されている就業規則等(本件でいえば旧規則)に従って、懲戒権の存否を決すべきであるといえる。
 6 ただ、ここで留意しなければならないことは、少なくとも、本件で問題となっている事項に関するかぎりにおいては、新規則は、旧規則の懲戒事由以上に附加、拡大したものではなく、これを類型化、細別化したものにすぎず、労働者側にとって、とくに不利益になったものでないことは、前段説示したところから、明らかである。 本件では、抗告人の問題となっている行為は旧規則施行当時になされたものであり、その懲戒権の存否は本来旧規則の規定によって決せられるべきであるが新規則で定められている懲戒事由は(本件と関連するかぎりでは)当然に旧規則上でも懲戒事由として存在していたのであるから、たとい、相手方会社のした懲戒処分が新規則の規定による形式によってなされていたとしても、その懲戒処分が適正・妥当になされているかぎり、旧規則によってされたものより、不利益になるものとはいえない(その意味では、本件で問題になっている事項については、旧規則による懲戒処分であれ、新規則によるそれであり、本来重複になるべき性質のものである)から、抗告人は、旧規則でなさるべきか、新規則でなさるべきかについては、とくに不服を申し立てる利益はないといえよう。