全 情 報

ID番号 03418
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大隈鉄工所事件
争点
事案概要  職場内で民青活動をしていたものによる退出届の提出につき、錯誤により無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法95条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
裁判年月日 1977年11月14日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ワ) 409 
裁判結果 一部認容・棄却(控訴)
出典 時報880号85頁/タイムズ369号352頁/労働判例294号60頁
審級関係 控訴審/00432/名古屋高/昭56.11.30/昭和52年(ネ)567号
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 三 退職願提出に至るまでの事実関係に基づく綜合的考察
 (一) 以上に認定した事実によれば次の事実が明らかである。
 (1) 訴外Aの失踪の原因は民青からの脱退は不可能であると悲観し絶望したことにあるが、同人はその内心を原告に知られないよう振舞っていたため、外見上は平素と変らず、従って、原告は訴外Aの失踪の原因については全く心当りがなかった。
 (2) 訴外Aの失踪は、真実の失踪であって、被告と共謀した芝居ではない。
 (3) 原告は、非公然活動の性質上訴外Aと自分との民青活動については絶対に秘匿しなければならぬとの考えから、訴外A失踪の前日に訴外A宅を訪問したことをも秘匿しようとして、会社職制の調査に対し、訪問の事実を否定し、更に訴外A父Bに工作電話をしたため、被告及び右訴外Bから疑惑を抱かれ、前記被告人事担当者らは原告が訴外A失踪の原因ないしその行方について重要な情報を知りながらことさらに秘匿しているに相違ないとして、九月二五、二六、二七日と三日に亘り社内調査の重点を原告一人にしぼり、原告との間に押問答を重ねたが、両者の間は平行線を辿るばかりで進展しなかった。
 前記詫び書は、この事態に終止符を打つべく、C人事部長の要請により原告が作成したものである(右文書作成の目的は、先に認定した事実及び証人Cの証言によれば、従来の原告の言動に対する反省と、訴外Aとの交友関係の一切を記載させると共に、その内容に偽りがないことを誓約させることによって、原告の言動に責任をもたせると共に、万一の事態発生に備えて、訴外Aの両親等に対し提示する被告の調査結果の一資料たらしめようというにあったことが認められる)。
 詫び書中の追記は、当初、原告において詫び書の内容に間違いは絶対ないと言い切った手前、間違いがあると分れば退職すると言ったことから、C部長がそれを文章として附加するようにと要請したため附加されたものであった。
 (4) 原告が退職する旨意思表示をしたのは、九月二八日にC部長、E、F両課長と面接中、F課長が民青資料を提示した直後である。そして、原告は、訴外Aとの交友関係中民青活動のことを秘匿していたことが詫び書にいう偽りに該当し、追記の文言どおりに責任をとらざるを得ずとの考えに基づいて、右意思表示をしたのである。
 一方C部長らは詫び書作成の経緯及び民青資料提示直後の退職の意思表示であることに徴し、原告の右意思表示の理由を察知していた。
 (二) そこで考えるに、詫び書作成の経緯及びその文言内容に徴すると、追記の趣旨は、原告が、訴外Aの交友関係中同人の失踪の原因と考えられる事実を知りながら、これをことさら秘匿していることが判明した場合には、退職するということであり、単に訴外Aと民青活動を共にしていたという事実のみの秘匿は、右の場合に該当しないことは明白である。但し、訴外Aの失踪の原因が民青活動にあることを原告が認識していれば、民青活動の秘匿は、右の場合に該当することになる(従って詫び書は信義則ないし民法九〇条等に違反する文書とは言えない)。
 してみると原告は、退職の意思表示につき動機の錯誤があったものというべきである。