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ID番号 03473
事件名 雇傭契約存続確認等請求事件
いわゆる事件名 岩田屋事件
争点
事案概要  百貨店の争議の手段としてとられたピケッティング中に生じた部長、課長に対する傷害行為を理由として組合の闘争委員が懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法2条
労働組合法8条
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1975年3月29日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 1135 
裁判結果 一部認容・棄却(控訴)
出典 時報791号29頁
審級関係
評釈論文 佐藤昭夫・判例評論206号33頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 1 本件争議において採られた各種の争議行為のうち、ピケッティングについては、全体としていまだ正当性の範囲を逸脱しているとはみられないものの、その際みられた出入口の閉塞、客への物理力の行使による顧客の入店阻止、被告百貨店への悪口はいずれも違法な争議行為であること、サンドイッチマン戦術そのものは、平和的説得に止まるものとして正当な争議行為であるが、サンドイッチマンなどによってなされた、顧客への嫌やがらせや、しつような協力呼びかけ、購買行為の妨害はもはや争議行為として許される範囲を逸脱するものであること、旗竿持ち込みは顧客に対する平和的説得の範囲を超え違法な争議行為であること、とくに領収書要求行為は積極的な営業の妨害を意図するものとして正当な争議行為とはいい得ないことは前示のとおりであり、しかして、原告らは前記認定のとおり、いずれも闘争委員として本件違法争議行為を企画、実施、指導し、またはこれと同視しうる情況にあったもの(ただし、領収書事件については原告X1、同X2のみ)であるから、責任の軽重はともかく、いずれにせよ、違法争議行為の企画、実施、指導の責任はそれに関与した範囲において免れ得ないというべきところ、右認定にかかる原告らの各行為は、会社就業規則第八一条第六号、第一二号、第八二条第九号(同号にいう「情状重いとき」とは同条但書よりみて「懲戒解雇に値するほどに情状が重いとき」の意と解しえないことは明らかである。)に該当するというべきである。
 2 しかしながら、
 (一) 本件争議における主要な争議戦術である顧客に対するピケッティングは全体として正当と評価されること、もっとも前示のとおり、争議期間中を通じ、しばしば出入口が閉塞されたり、顧客に対する実力行使がなされたり、会社に対する悪口が叫ばれたりしたことは違法といわざるを得ないが、全体を通じてみると、これらの行為は偶発的、一時的、かつ、軽微なものであって、違法性の程度も左程高くないと見られるし、また組合幹部三役ら闘争委員もできるかぎりピケの指導統制に努めていたと認められること。
 (二) サンドイッチマン戦術もそれ自体は違法とはいえないのみならず、サンドイッチマンらがなした違法行為は、闘争委員らの統制、指導を超えたものであり、闘争委員らの統制指導の及ばない店内でなされた違法行為につき重い責任を問うのはいささか酷であること。
 (三) 旗および旗竿の持ち込みは違法な争議行為といわざるを得ないが、これは全岩労闘争委員らの企画、指導になるものではなく、支援労組の独断によるものであり、かかる行為を黙認した以上責任なしといえないこと前示のとおりではあるが、責任の軽重を判断する場合にはかかる事情を当然しん酌すべきこと。
 (四) 領収書要求行為は積極的業務妨害と判断せざるを得ないが、前示のとおり、それが主たる目的とはみられないこと、およびそれが当初のA従業員に対する説得の目的を達しえず、弊害のみ多いことを知るや、ただちにこれを取り止め爾後行なっていないこと。
 等諸般の事情を考慮するときは、原告X3、同X4、同X5、同X6は勿論、原告X1、同X2についても、その情状は同原告らを被告企業から排除しなければならないほどに悪質重大であるとはいい得ず、休職(原告X1,同X2についてはかなり長期の休職)にとどめるのが相当であるから、同原告らに対してなした懲戒解雇処分はいずれも就業規則の適用を誤った違法があるか、もしくは懲戒解雇権を濫用したものとして、無効である。