全 情 報

ID番号 03535
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 阿部写真印刷事件
争点
事案概要  本社から分離独立した子会社が解散されたことにつき、子会社の従業員が親会社を相手どって地位保全等の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 使用者の概念
労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
裁判年月日 1974年11月18日
裁判所名 福島地
裁判形式 決定
事件番号 昭和49年 (ヨ) 36 
裁判結果 却下
出典 労働民例集25巻6号520頁/時報770号102頁
審級関係
評釈論文 光岡正博・法律時報47巻11号132頁/中嶋士元也・ジュリスト612号113頁
判決理由 〔労基法の基本原則-使用者-使用者の概念〕
〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 A会社の法人格が形骸に過ぎないかどうかを判断するに、以上説示の事実によれば、債務者とA会社とは、いわゆる分離独立型の親子会社に該当するものと考えられるが、A会社の株主や役員の構成及び業務の内容等を見れば、債務者は、A会社を支配できる地位にあつたものということができる。しかしながら、A会社は、機構上、債務者とは別個の組織・財産を有し、独立採算制のもとに、債務者との取引をも含め、その名で業務を運営し、その収支を明らかにする計算書類を作成していたのであつて、A会社の実質が全く債務者の一支社に過ぎないといえるような会社財産ないし業務の混同があつたものとは、とうてい認め難い。また、A会社において株主総会や取締役会等法定の手続を無視していたものと認めるに足る疎明も、全くない。そうとすれば、A会社は、前叙のごとく債務者の支配を受ける立場にあつたとはいえ、いまだ、その法人格をもつて全くの形骸に過ぎないものと断定することはできない。
〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 債務者とA会社とは、実質的にも別個の法人格を持つていたものである。そして、債権者らは、A会社設立後、それを認識したうえで勤務を続けたものであり、特に異議が出たことを認めるに足りる疎明はないから、債権者らの雇傭関係は、債務者からA会社に移転したものというべく、その後は、債務者が直接雇傭契約上の義務を負担することはないといわなければならない。
 七 なお、債権者らは、A会社設立後の労使間の紛争がA会社の解散・本件解雇にまで至つたのは、債務者が債権者らによる組合運動を抑圧する意図をもつて、A会社に対する支配力を利用しその法人格を濫用したためであるとも主張しているようである。しかし、右主張のような債務者の団結権侵害行為があるかどうかはさておき、かりにそれがあるとしても、そのことによつて、前叙のように雇傭契約の当事者ではない債務者に対し「雇主」たる地位を認めるところまで、A会社の法人格を否認することは困難というべきであろう。けだし、法人格否認の法理は、法人制度の目的に照らし必要な限度において相対的に適用すべきものと解されるので、右のような法人格の濫用による団結権侵害行為に対しては、これを排除するに必要な限度で、換言すれば、不当労働行為に対する救済の問題としてその限度で法人格否認の法理を援用すべきものと考えられるからである。