全 情 報

ID番号 03554
事件名 懲戒処分等取消請求事件/損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東京都立看護学院卒業生事件
争点
事案概要  東京都立の看護学院の卒業生が希望の都立病院に就職できず遠方の都立病院に採用されたことを就労差別として、就労闘争と称して医師等の援助をえて瀕死の重症患者にビラを配布し話しかけたりして退去を命ぜられても従わず逮捕されたことを理由として医師、看護婦らとともに停職二カ月から口頭注意までの処分を受けたことにつきその効力を争った事例。
参照法条 地方公務員法33条
地方公務員法29条1項1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1974年12月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (行ウ) 207 
昭和49年 (ワ) 2615 
裁判結果 一部却下、一部棄却、一部認容
出典 タイムズ328号320頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 そこで、集会に関する点を除く原告Xの行為につき考えるに、Aは、都に看護婦として採用されなかつたのであるから、B病院において就労すべき何らの権利も義務も有しなかつたこともちろんである。したがつて、仮に原告らの主張するように、都がAを採用しないことが不当な就職差別であると言うのであれば、Aの採用を実現させるためには、話合いその他社会通念上許容される限度での適切な手段方法によつて解決を図る以外に方法はない。それなのに、Aは、原告Xも加わつた前記闘争委員会の決議に基づき、無謀にも就労闘争と称して、一方的にB病院において勤務することを企てたのであるから、同病院の秩序を乱すこと甚だしく、このような行為は、いかなる目的を有するにせよ、当初から容認される余地は皆無である。しかも、〈証拠〉によれば、看護婦の採用は、衛生局総務部庶務課の所管事項であつて、面接 選考などについては同局病院管理部管理課なども実質的に関与しているけれども、就職希望者の受入先である都立病院側には何ら権限のなかつたことが認められる。したがつて、仮にAの就労闘争が都の不当な就職差別に対する抗議行動としての意義を有するものとしても、それは権限のない相手方に向けられたものであつて、これに対処するすべのないB病院にとつては、迷惑千万というのほかない。原告Xが、主治医の承諾なしに(もつとも、仮に主治医の承諾があつたとしても、それによつて原告Xの行為が正当化されるわけでないことは多言を要しない。このような場合には、承諾を与えた主治医も、Aらの意図を認識しているか、認識しなかつたことに過失がある限り、処分の対象とされ得るだけのことである。)、また、付添い看護の必要もなく患者の希望もなかつたにもかかわらず、就労闘争と称してAが生命に危険のある重症患者の付添い看護をすることを援助したことは、患者の生命健康を預かる病院に勤務する医師としてあるまじき著しく軽率な行為であり、そのため院内を混乱させて病院業務を妨害し、患者の安静を害したというべきである。このような原告Xの行為は、医師としての職の信用を傷つけるものであるから、地方公務員法第三三条に違反し、同法第二九条第一項第一号及び第三号に該当する。
 (中略)
 右認定によれば、原告らが行なつた都立病院就職差別撤廃闘争委員会の集会は、中一日を除き八日間にもわたつて連日かなりの時間執拗に行なわれたもので、B病院の静穏を害し、患者の安静をそこない、患者及びその家族らに対し不安を与えたことが明らかである。このような集会は、いかなる目的を有するにせよ、著しく不当であつて到底許されない。そして、右集会は、「拡声器の使用等によりけん騒な状態をつくり出すこと」を禁止する東京都庁内管理規則第五条第一項第二号に違反する。また、原告らの行為は、医師又は看護婦としての職の信用を傷つけるものであるから、地方公務員法第三三条に違反し、同法第二九条第一項第一号及び第三号に該当する。
 原告らは、前記闘争委員会の集会を都職労病院支部大久保分会の集会と比較することによつて従来から組合活動として容認されてきた範囲内の行為であり、都職労の集会と区別して非難されるような理由はないと主張する。しかし、原告らが違法な集会を行なつたものである以上、仮に都職労の集会が違法であるにもかかわらず病院管理者から黙認ないし容認されていたとしても、それによつて原告らの行為が正当化されるいわれはない。ただ、このような場合には、事情の如何によつて、原告らに対してのみ処分をすることが処分権者の裁量権の逸脱となる場合があり得るだけである。〈証拠〉によれば、都職労病院支部大久保分会の集会につき原告らが主張するような事実(原告らの主張六2の事実)があつたことが認められる。他方、〈証拠〉によれば、右集会は、原告らが行なつた集会のように連日行なわれたことはないし、入院患者や看護婦などから集会につき苦情が出たこともなく、病院管理者からマイクの音量や使い方などにつき注意を受けた場合には、然るべくこれに沿つた配慮をしていたことが認められる。これによれば、両者の集会の間には、その態様、患者などに及ぼした影響などの点についてだけでも相当の相違があると認められるから、本件に現われた事実だけでは、原告らに対する本件処分と都職労の集会に対する処分権者の対処の仕方とを比較して裁量権の逸脱の有無を論ずることはできない。