全 情 報

ID番号 03572
事件名 慰謝料請求事件
いわゆる事件名 日本放送協会事件
争点
事案概要  タイピストの頚肩腕症候群につき、使用者に対し職業性及び災害性の疾病ないしその増悪を防止すべき注意義務違反があったとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1973年5月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 10947 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 下級民集24巻5~8合併号317頁/時報706号10頁/タイムズ297号146頁
審級関係
評釈論文 桑原昌宏・判例タイムズ302号86頁/三島宗彦・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕142頁/山田耕造・季刊労働法91号88頁/大竹秀達・月刊労働問題188号88頁/大竹秀達・労働法律旬報840号52頁/保原喜志夫・ジュリスト538号60頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務〕
 使用者は、労働基準法四二条・四三条・五一条・五二条、労働安全衛生規則四七条四号等の趣旨に基づき、その被傭者の健康安全に適切な措置を講じ、職業性及び災害性の疾病の発生ないしその増悪を防止すべき注意義務を負つているところ、労働基準法・労働者災害補償保険法等の法意にかんがみ、労働者の疾病につき業務起因性が肯定される以上は、特段の事情がない限り、使用者側に右注意義務の不遵守があつたと一応推定されて差支えなく、右の推定を争う使用者の方で特段の事情を証明する責任を負うものと解すべきであるが、成立に争いのない乙第一六号証及び弁論の全趣旨によると、被告は毎年一、二回の胸部疾患を中心とする定期健康診断を実施して来たほか、診療所を設け、その職員の健康管理にも注意をはらつてきた事実が認められるけれども、右の事実だけでは被告が、タイピスト等事務機械労働者に対して適切な職業病予防対策を講じて来たことの証拠とはならないし、他にこの点について適切な措置を講じたと認めるに足る証拠はなく、結局右特段の事情が立証されたとはいえない。そうすると、被告は原告に対する健康保持・職業性疾病予防の注意義務を怠つたと断じうるから、被告は、原告が前記疾病によつて受けた損害を賠償すべき責任があるというべきである。
 なお、原告は昭和二二年以来痛みを理由として配置転換の申出をしたにもかかわらず、被告がこれを無視したため症状が増悪した旨主張するが、先にみたとおりこれを認めるに足りる証拠はないから、右主張事実をもつて被告の責任加重要素とすることはできない。