全 情 報

ID番号 03573
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本電信電話公社
争点
事案概要  首相訪米阻止闘争に参加し、公務執行妨害罪で起訴されたことによる起訴休職処分につき、右処分が相当とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性
休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力
裁判年月日 1973年5月28日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 78 
裁判結果 却下
出典 労働民例集24巻3号215頁/訟務月報19巻10号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-起訴休職-休職制度の合理性〕
〔休職-起訴休職-休職制度の効力〕
 (一) 起訴休職制度の趣旨
 1 日本電信電話公社法(昭和二七年法律第二五〇号。以下、単に公社法という。)第三二条によれば、「職員が刑事事件に関し起訴されたときは、その意に反して休職にされることがある」旨の規定があり、前記就業規則の条項は該規定を受けたものであることは条文上明らかであるが、さらに、被申請人と全国電気通信労働組合(以下、単に全電通労組という。)との間に締結された「休職の発令時期等に関する協約」第一条には、「職員が刑事事件に関し起訴されたときは休職を発令するものとする。ただし、事案が軽微であつて情状が特に軽いものについては休職を発令しないことができる。」旨の規定が存することは、成立に争いのない疎乙第五号証に照らして明らかである。
 これらの諸規定の体裁からしても、被申請人公社におけるいわゆる起訴休職制度は、職員が刑事事件に関し起訴されたときはおよそ休職処分にしなければならないとか、あるいは、起訴休職制度は、起訴という事実だけを要件としているのであつて、国家機関たる検察官がその権限に基づいて行なつた起訴という事実に着目して、任命権者が自己の裁量によつて休職処分に付した以上、その処分の適否に関して論ずる余地はないなどと議論する必要はなく、上記諸規定は、職員を起訴休職に付するかどうかはいちおう被申請人の裁量に委ねているとはいうものの、起訴休職制度の設けられた趣旨、目的に照らし、被申請人もその運用については、自ら客観的、合理的な制約に服すべきものであり、これに反する起訴休職処分は、公社法の規定が被申請人に与えた裁量権の範囲を逸脱したものないしは裁量権を濫用したものとして無効となるものと解するのが相当である。そして上記協約もこの趣旨を明らかにしたものに他ならないというべきである。
 (中略)
 4 (1) そうすると、本件公訴事実は、申請人の反戦青年委員会加盟者ないしその同調者としての過激な性向を象徴するものとして、社会的に強い非難に値するものというべく、かかる犯罪を犯したとして起訴された職員を依然として業務に従事させておくことは、公社の業務の高度の公共性にかんがみるとき、なお申請人の主義、行動に同調しない他の職員との間に違和感を生じさせること等によつて、職場秩序を乱し、業務を阻害するおそれが多分にあり、あるいはかかる反社会的な行為をしたとして公訴の提起をうけた職員を依然として業務に従事させておくことは、高度に公共性のある公社の綱紀の弛緩を意味するものとして、公社の国民に対する信用を低下、失墜せしめるおそれが強い(なお、かかる事情のもとにおいては、本件公訴事実につき有罪判決が確定した場合には、申請人に対し相当重い懲戒処分がなされることも十分予想されるところである。)したがつて、本件公訴事実は前記労働協約に規定する「事案が軽微であつてその情状が特に軽いもの」には該当しないと解すべきであるから、被申請人公社が申請人を公社職員就業規則第五二条第一項第二号に該当するとしてなした本件休職処分の発令について、被申請人に裁量権の逸脱ないし濫用のかどはないものというべきである。