全 情 報

ID番号 03587
事件名 地位保全等仮処分申請控訴事件
いわゆる事件名 横浜ゴム事件
争点
事案概要  会社施設内における政治活動を禁止する就業規則は有効であり、右活動を理由とする懲戒解雇は権利濫用にあたらないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1973年9月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ネ) 1813 
裁判結果 一部取消・申請却下(確定)
出典 時報733号104頁/東高民時報24巻9号173頁
審級関係 一審/浦和地/昭43. 8. 8/昭和40年(ヨ)345号
評釈論文 吉川基道・月刊労働問題196号98頁/竹下英男ほか・労働法律旬報851号52頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 (三) 会社の施設又は構内において政党の機関紙を配布し、その他の政治活動を行うことを禁止した就業規則第二六条の規定は憲法第一三条、第一九条、第二一条、第二八条又は労働基準法第三条、第八九条に違反し、無効であるとの主張について。
 《疎明略》によれば、控訴会社の就業規則第二六条の規定は、会社の施設又は構内において従業員が政党の機関紙を配布し、その他の政治活動を行うことを禁止していることが明らかである。ところで憲法第一九条の保障する思想及び良心の自由が侵すべからざるものであることはいうまでもなく、また同法第二一条の保障する言論及び表現の自由も民主政治の基盤をなす重要な基本的権利であってみだりに制限すべきでないことも当然である。しかし、いかなる思想、信条にもとづくにせよ、これが社会生活の規律を乱す行為としてあらわれるときは、右行為に対して制裁を課することは社会秩序を維持するために欠かせない事柄であって、これをもって直ちに思想、信条の自由を侵すものということはできず、また言論及び表現の自由と雖も、私人がその自由な意思にもとづいて締結した契約上の義務を履行するうえに必要な限度において制限を受けることもやむを得ないところである。そして企業と雇傭契約を締結した者(従業員)は職場の規律を守り、誠実に労務を提供すべき契約上の義務を負うものであり、企業の施設又は構内において労務の提供と無関係な政治活動を自由に行い得るものとすれば、もともと高度の社会的利害の対立、イデオロギーの反目を内包する政治活動の性質上、従業員の間に軋轢を生ぜしめ、職場の規律を乱し、作業能率を低下させ、労務の提供に支障をきたす結果を招くおそれが多分にあるから、使用者が企業の施設又は構内に限ってこれらの場所における従業員の政治活動を禁止することには合理的な理由があるというべきであり、これをもって従業員の思想や信条の自由を侵し、又は思想、信条を理由として差別的取扱をなしたものといい得ないことは勿論、言論その他表現の自由に対する不当な制限ということもできないと解される。しかのみならず、更に遡って考えれば思想や信条の自由、言論その他の表現の自由といわれるものには、特定の思想や信条を他から強制されない自由、これを拒否する自由も含まれ、また、これらの思想や信条にもとづく言論その他の表現のための他人の活動を受容しない自由、これを拒絶する自由も含まれていると解すべきであって、私人がその住宅内において特定の政治上の主義主張にもとづく他人の政治活動を受容する自由とともにこれを拒絶し、禁止する自由をもっていると同様に、労働関係においても、使用者は、その管理する工場、事業場の内部における従業員又は外部の第三者による政治活動を許容し、又はこれを拒絶し、禁止する自由をもっているものといわなければならない。
 (中略)
 (四) 本件懲戒解雇は解雇権の濫用又は不当な処分であるとの主張について。
 被控訴人らの就業規則違反の行為が度重なるものでありそのため上尾工場の一部において職場の規律が乱れ、作業能率の低下をきたしたことは前記疎明のとおりであって、被控訴人らの責任は決して軽微ということができない。