全 情 報

ID番号 03588
事件名 地位保全仮処分事件
いわゆる事件名 日本電信電話公社事件
争点
事案概要  起訴休職処分を受けた電電公社職員に対する政治活動にともなう逮捕・起訴等を理由とする懲戒免職処分も違法ではないとされた事例。
 労働契約関係に伴う信義則上の義務として、私生活上も企業の信用、利益を害するような言動を慎むべき忠実義務を負うとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働契約と労働協約
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業秩序・風紀紊乱
裁判年月日 1973年10月5日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 3698 
裁判結果 却下(確定)
出典 訟務月報20巻3号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働契約と労働協約〕
 1 懲戒事由の一として右就業規則五九条七号に「職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき」同条二〇号に「その他著しい不都合な行為があつたとき」と定められていることは当事者間に争がない。ところで、申請人らの如き公共企業体職員の労働関係は、私法上の雇用契約関係と解するのが相当であるところ、かかる職員に対する懲戒権は、企業秩序の維持、生産性の向上という目的から行使されるもので、職員は全人格、全生活領域にわたつて使用者の評価統制に服するものではない。
 しかし、私生活上の行為がそのために野放図に許されるのではなく、労働契約関係に伴う信義則上の義務の履行として私生活でも企業の信用、利益を害するような言動を慎しむべき忠実義務を負うものというべきであり、右忠実義務に反しない限り、その言動は何らの拘束を受けず、自由なものというべく、かかる言動は懲戒の対象とはなりえないものである。従つて、職場外の私生活上の行為が右就業規則にいう「職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき」、あるいは「著しい不都合な行為があつたとき」に該当するか否かは、その企業の性格、非行の性質程度、その職員の地位、職種、事件についての社会的報道等諸般の事情を総合考察して、それが他の職員に対し悪影響を及ぼし企業の秩序ないし労務の統制を乱したか、対外的に企業の信用をそこなわなかつたか、企業の運営に何らかの悪影響を及ぼし、それによつて企業の利益が害され、または害されるおそれがあつたか等を判断して決すべきものである。
〔解雇-解雇事由-企業秩序・風紀紊乱〕
 以上認定の公社の性格、公社職員の法的地位、申請人らの行つた非行の態様、程度、性質等の諸事実を合せ考えると、申請人らの前記行為は一般国民の信用ないし信頼に反し、反社会性の極めて高い非行を行つたものとして、公社の職員としての品位を傷つけ信用を失つたものであり、これにより公社の対外的信用をそこない、その企業秩序を破壊したものと解するに難くなく、申請人らの行為は就業規則五九条七、二〇号に該当するものというべく、しかもその情の極めて重いことは前示のとおりであるから、特段の事情のない限り、公社は、その余の懲戒事由につき判断するまでもなく、日本電信電話公社法三三条一項により申請人らを懲戒免職に処しうるものというべきである。
 (中略)
 申請人らが昭和四四年一一月一六日兇器準備集合罪、公務執行妨害罪を犯したものとして、同年一二月八日起訴せられ、本件懲戒免職処分に先立つ同月二五日公社から右起訴を理由に起訴当日に遡及して起訴休職に付されたことは当事者間に争がない。しかしながら、起訴休職処分は職務上の義務違反をした職員に対する懲罰の見地からなされるものではなく、職務の適正な能率運営の確保のため任用上の見地からなされる職員の身分に関する処分であつて、このような職員を秩序維持の見地から終局的に懲罰もしくは非難するにある懲戒処分とはその制度の趣旨、目的を異にするものであり、また申請人ら主張の如く起訴休職制度に起訴事件の結果の確定をまつて最終的な取扱を決定するという趣旨があることは否定できないにしても、免職猶予の趣旨を含むものとは到底解せられないから、公社が申請人らに対し起訴休職中に懲戒免職をしたからといつて何ら違法ではない。