全 情 報

ID番号 03592
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 安川電機製作所事件
争点
事案概要  電気機械等の製造・販売・技術サービスをする会社が、販売代理店に従業員を派遣駐在させる命令につき、出向ではなく配転であり、右命令は有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
配転・出向・転籍・派遣 / 出向と配転の区別
裁判年月日 1973年11月27日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ヨ) 265 
裁判結果 却下
出典 労働民例集24巻6号569頁/時報733号108頁/タイムズ311号222頁
審級関係
評釈論文 荒木誠之・判例評論186号30頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向と配転の区別〕
 4 以上に述べたこと総合して考えるとき、本件命令は、申請人に対し、A会社のために同社の指揮命令下で就労することを命じたものではないから、前に述べた意味における出向にはあたらないと解せられる。なお、付言すると、前記「出向に関する覚え書き」には、就業時間・休日(原則として出向先の規定に従う)、出向期間(一時派遣の場合原則として二年間)、出向手当、労働条件の保障(社内勤務の場合を下廻らないよう保障する)等の諸条項があり、本件命令に基く駐在においても右と類似の取りきめが多くなされているところから、本件命令もまた右覚え書きにいう出向を命じたものではないかとの疑問を容れる余地がないでもない。しかしながら、右覚え書きは前記のとおり、出向を定義して「在籍のまま他社または他団体に転出し、その役員または従業員として勤務に服することをいう」と定めているから、本件駐在がこれにあたらないことは明らかである。そして、前掲各疎明によれば、右覚え書きは本件の前提となつたサービス体制改善強化とは無関係に、それ以前、かつ別種の出向に関して協定されたものであること、しかしながら本件命令に関しても、技術サービス員に妥当しかつ有利な条項については類推適用ないし準用するとの発想で、労使協議のうえ、前記認定のような就労条件が定められたものであることが窺われるから、右覚え書き条項類似の定めがある故をもつて、本件駐在が出向にあたるとみることはできない。
 結局、本件命令は、前記就業規則五六条に根拠を有し、申請人に対し被申請人会社小倉工場検定課試験係からサービス改善企画室所属を命じたことは、同条の「職種の異動」に該当し、さらにA会社に派遣駐在を命じたことは、同条の「職場の異動」ないしは「勤務場所の変更」に該当するというべきであつて、いわゆる同一企業内における配置転換の形態に該当するものというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 三、そこで、申請人が就業規則に根拠を有する被申請人会社の本件命令に対し、これを拒絶するにつき正当な理由を有するか否かについて判断する。
 申請人が本件命令を拒否する理由は前記のとおりほぼ四点であつたが、そのうち、妻の勤務上の必要および両親の近くに居住する事の必要の点については、申請人の派遣先が北九州市八幡区(略)所在のA会社に決まつたことにより実質的に解決したとみられる(なお、申請人が夫婦の通勤に便利な土地に借家を求め、父母とも同居し、子供を保育所に委託し、その希望するところとさほど隔たりのない生活を営んでいることは前認定のとおりである)。また、入社の際、勤務場所を被申請人会社小倉工場とする旨の約束があつたとの主張の点についても、前記のとおり、「できれば北九州」との希望を表明したことはあるとしても、特に小倉工場に限る旨の特約があつたことの疎明はないから、少くとも現時点において、本件命令を拒否する理由とはなりえない。もつとも、勤務時間や休日が前記のように変更となり、申請人の労務がそれだけ増大したことは否めず、そのことによつて妻子の迎えが困難となり、家族に若干の負担をかけていることも窺うに足りる。しかしながら、申請人の年令(現在二六才)ならびに被申請人会社が技術サービス員の代理店派遣に強い必要と少なからぬ利益を有すること、労働時間の延長等に対しては、被申請人会社の定めによる定時外勤務手当を支給し、その他派遣に伴う諸手当を給付することによつて補償しようとしていること等と比較考量すると右のような負担増加は、申請人が労働協約・就業規則等にしたがい被申請人会社に労務を提供するにあたつて受忍すべき限度内にあるというべく、申請人としては、本件命令を拒否する正当理由があるとはいえない。そして、他にかかる正当理由の疎明はない。