全 情 報

ID番号 03601
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 エールフランス事件
争点
事案概要  外国航空会社の日本支社を配属先とする日本人スチューワーデスのパリ移籍(形式上は再雇用)拒否を理由とする解雇につき、移籍の動機および解雇理由より権利濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1973年12月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ヨ) 2354 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報726号25頁
審級関係 控訴審/00281/東京高/昭49. 8.28/昭和48年(ネ)2772号
評釈論文 井上修一・季刊労働法92号111頁/本多淳亮・判例評論185号23頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 本件パリー移籍は、日本人スチュワーデスの雇用及び配属地を東京からパリーに変更するために、従前の雇用契約を終了させると同時に新しい雇用契約を成立させるという手続がとられたが、再雇用の成立するかぎりにおいて実質上の転勤すなわち配置転換にはほかならない。ところが、申請人らが東京を雇用地とし、被申請人の日本支社を配属先とするスチュワーデスとして期間を定めないで被申請人に雇用されたものであることは当事者間に争いがないから、その雇用契約上勤務地は東京と特定されているのである。したがって、被申請人は申請人らに対してその雇用地又は配属地を東京以外の場所に変更する転勤その他の配置転換を命ずることができないし、申請人らは自己の意思にもとづくのでなければ東京以外の場所にその雇用地及び配属地を変更されることがないというべきである。申請人らはその雇用契約上右のような地位を有するものであるが、さらに、《証拠略》をあわせると、日本人スチュワーデスの採用条件は、年令二〇歳以上二七歳未満の日本人女で独身者であること、フランス語又は英語のいずれか一か国語を完全に話すことができ、かつ、他の一か国語につき実用に供しうる程度の知識を有すること、被申請人が行なう選考試験並びに指定医による健康診断に合格することであり、試用期間六か月、一おう三五歳をもって定年とするが、四〇歳まで一年毎に更新することができるものとし、解雇事由につき就業規則は、服務上の義務違背にもとづく制裁たる解雇(これはさらに予告を伴うものとそうでないものの二段階がある。)を規定するだけであり、年収は在職一年(平均二四歳)で四万八一四二フラン、同六年で五万四九六二フラン、同九年で六万四九〇フラン(標準レート一フラン=六二円三一銭換算三七六万九一三九円)であることが認められるから、申請人らの雇用契約上の地位は比較的に高く、かつ、安定したものということができる。しかも、日本人女にとって、英仏二か国語につき一か国語を完全に話すことができ、他の一か国語につき実用に供しうる程度の知識を有することを要求されることは、その習得の努力及び困難において英米仏人と同日の談ではなく、入社競争率においても、被申請人をはじめノース・ウェスト、BOACなどの一流外国航空会社のスチュワーデスへの関門を通ることが、ときには三〇倍を越える狭き門となっていることは当裁判所に顕著な事実であるから、申請人らが被申請人会社のスチュワーデスとしてその雇用関係上有する右地位及び利益は、もとより被申請人が与えたものではあるが、同時に自己の刻苦勉励に負うものであり、かつ、既得のものというべきである。したがって、被申請人は、申請人ら日本人スチュワーデスがパリー移籍に応じない場合においても、みだりに右既得の地位及び利益を一方的に奪うことを許されないものといわなければならない。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 3 以上の理由によれば、被申請人が申請人らに対してそれぞれ昭和四八年一〇月三一日付文書を交付して申請人らとの各雇用契約についてしたその「雇用契約を同年一二月三一日をもって終了させる」旨の解雇の予告の意思表示は、パリー移籍の動機的事情並びに解雇の理由に照らして、到底客観的に合理的な理由が存するものとはいえないから、解雇権を乱用したものとして無効と解するのが相当である。したがって、被申請人と申請人ら間の各雇用契約は右の解雇の予告により同年一二月三一日をもって終了することはありえないというべきである。