全 情 報

ID番号 03620
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 島根ビーエスタイヤ事件
争点
事案概要  企業にとって重荷となっている零細工場への出向命令を拒否したことを理由になされた懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1972年4月8日
裁判所名 松江地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ヨ) 40 
裁判結果 認容
出典 タイムズ279号349頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 近年産業界の企業再編成、企業合理化の進行に伴ない企業の多角的経営、企業間の業務提携が多く行なわれることになり、これについて人事異動も単なる社内異動の埒を越え、広域かつ系列化している。このような出向人事は出向元を定年退職した社員の第二の就職口確保という形態のものもあるが、通常は傍系会社の経営の立直し(生産、販売、金融、人事等の管理)というかなり重要な使命を帯びて行なわれることが多くこの場合将来出向元会社へ復帰できるとしても、復帰の際に出向先での成績不良を理由に昇進が遅らされるとか、責任を問われてつめ腹を切らされるとかいつた事態もないわけでなく、また終身雇傭制のもとでは出向労働者が冷遇されることも充分予想できるところである。従つて労働協約で労働者を当然に拘束しうる出向制度を一般的に設定しており、出向が労働者にいちじるしい負担の増加や労働条件の低下を伴わない場合でも、当該出向命令が正当な理由に基づかない場合は人事権の濫用と解するのが相当であり、前記新協約二〇条第二項の「本人の意向も尊重して行なう」は当然の事理を表明したものというべきである。これを本件についてみるに申請人Xに対する本件出向命令には前記のとおり業務上の必要性があり、申請人Xに経済的な不利益を与えるものでもないが、一般に更正タイヤ業界の将来に不安があり、Y会社にとつては生産性が悪く、低率の利潤しか上らず、企業にとつて既に重荷となつている零細工場に出向し、これが再建を命ぜられたことにつき危虞の念を抱き、この出向が将来自己にさまざまの不利益をもたらすのではないかとの不安を持つた申請人Xに対し、出向期間、出向元である被申請人への復帰保証等につき何等明確な示唆も与えず、前記のとおり、業務上の必要性のみ説いて出向命令を強行したことは、人事権の正当な行使とはいいがたいものといわなければならない。