全 情 報

ID番号 03642
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 杉本花月堂事件
争点
事案概要  管財人が更生会社の従業員に対し、管財人の解任を申立てるなど更生計画の遂行を妨害する行為があるとしてなした解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
会社更生法53条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
裁判年月日 1972年9月18日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヌ) 669 
裁判結果 認容
出典 タイムズ289号248頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
 債権者は一面において本件更生会社の従事員たる札幌店店長の地位を有するとともに他面においては本件更生会社の株主兼取締役でありかつ実際上本件更生会社の運営上疎外すべからざる存在であつたといわなければならない。
 かかる観点から債権者の行為を考えるに、まず管財人解任申立の点については、更生会社の利害関係人は重要な事由があるときはいつでも管財人解任の申立をなしうるのであり(会社更生法九八条ノ五)、更生会社の株主は右にいう利害関係人に該当するから(同法一条参照)、債権者が株主たる資格においてなした管財人解任申立は本来法律上許された行為であつて、債権者が株主であると同時に本件更生会社の札幌店店長たる地位にもあつたからといつて、かかる申立をすることがただちに解雇を正当ならしめる理由になるとはいえない。そして、債権者が債務者の解任申立をするについては、前認定の如く、債権者としては小樽支店新設等に要する資金調達のために新株発行をしてなんびとかに割当てることは予期していたものの、債務者に対して割当てるとか、債務者とその友人二名に対して発行済株式総数の過半を取得させるような割当方法がとられようとは予期されていなかつたこと、また具体的な新株発行計画について債権者が疎外されていたなどの事情に鑑みれば、右解任申立は債権者の側からすれば一応相当の理由があつたものというべきであり、債務者の主張するように更生計画の遂行を妨害し挫折させる意図に出たものとは認められず、右申立は解雇を正当ならしめる理由とはなり得ないものというべきである。
 そこで、次に告発の点について考えるに、債権者が告発するに至るまでの前認定の経緯、ことに、債務者が債権者の事前の了解を求めずに新株発行許可の申立をし、許可を受けていち早く既成事実を築いたことや、解任申立後更生裁判所の斡旋による話合いの際に債務者が新株一万株を債権者に譲渡するのと引換えに債権者の退職を求めた事実からすれば、債権者としては債務者の本件更生会社乗つ取り計画に対する疑惑をさらに深めたであろうことは容易に推認できる。そうすると、その後に行なわれた前記告発についても、債権者の側からすれば一応相当の理由があつたものというべく、債務者が新株発行計画に関して債権者を疎外してその不信を買つたことが債権者のかかる行為を触発した事情を考えると、本件更生会社の従業員に動揺を与え、本件更生会社の対外的信用をそこなうであろう告発という手段に訴えた債権者の行為の責任を一方的に債権者に帰するのは妥当ではない。
 然りとすれば、債権者の前記告発行為も解雇を正当とする理由とはなり得ないものというべきである。
 そうすると、債務者が債権者に対してした前記解雇の意思表示は債権者を企業外に排除しなければならない合理的な理由がないのにかかわらずなされたものというほかなく、したがつて右解雇の意思表示は解雇権の濫用によるものとして無効である。