全 情 報

ID番号 03663
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 札幌中央郵便局事件
争点
事案概要  飲酒運転により人身事故を起して被害者を死亡させた郵政省の職員が懲役一年の実刑判決を受けた後辞職願を提出しそれにより勤務関係は終了したとして退職手当を請求した事例。
参照法条 国家公務員退職手当法8条1項1号
日本国憲法14条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1971年1月25日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 1443 
裁判結果
出典 労働民例集22巻1号49頁/時報628号87頁/訟務月報17巻5号788頁
審級関係
評釈論文 前田政宏・ジュリスト505号123頁
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 現行実定法は公務員の勤務関係を公法関係として構成しており、郵便集配人について特に例外を設けてはいない。原告の勤務関係が右のように公法関係であると解される以上、辞職の場合であつても、辞職の申出に対する任命権者の承認を俟つてはじめて退職の効果を生ずるのであり、辞職願は退職の処分に対する同意の効力を有するほかそれ自体独立に法的意義を有するものではない。そして、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告が昭和四四年一月二五日に提出した辞職願は、その形式上もなんら通常の辞職願と異なるところはなく、その他本件の全証拠によるも、原告が右辞職願提出の際、通常の辞職願と異なり、特に雇傭契約解約の意思表示としての意味を含ませる旨念達したとか、右書面の提出の際同時に雇傭契約解約の意思表示をも口頭でしたことを認めるに足りないから、原告の私法上の雇傭契約解約の意思表示を前提とする請求はこれを認容することができない。
 (中略)
 原告は、退職手当は賃金の後払いの性質を有し、退職理由の如何を問わず当然支払われるべきものであるから、右国家公務員法七六条の規定による失職者には退職手当を支給しないと規定している国家公務員等退職手当法八条一項二号は憲法一三条、一四条、二五条ならびに労働基準法三条に違反すると主張するので検討するに、国家公務員等退職手当法八条一項二号が退職手当の支給について刑事罰を受けたものを他と差別していることは明らかであるけれども、憲法一四条、労働基準法三条はいかなる差別をも禁止する趣旨ではなく、個人の尊重を宣明した憲法の理念に照らし社会通念上不合理と考えられる差別を禁止するものであるところ、公務員が禁錮以上の刑に処せられて当然失職した場合には、退職手当の支給を受けるに値しないと考えられ、退職手当の支給を受けられないという不利益を受けることもやむをえないと解されるから、前記国家公務員等退職手当法の規定が憲法一三条ないしは一四条、労働基準法三条に違反する旨の原告の主張は理由がない。