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ID番号 03671
事件名 給与支払請求事件
いわゆる事件名 三井鉱山事件
争点
事案概要  就業時間中のゼッケンの着用が労働協約の禁止条項に違反するとしてその取りはずしを命じられたにもかかわらず、これに従わなかったとして就労を拒否された炭鉱労働者が賃金を請求した事例。
参照法条 労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権
裁判年月日 1971年3月15日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 1867 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集22巻2号268頁/時報626号93頁/タイムズ264号317頁
審級関係
評釈論文 宮本安美・法学研究〔慶応大学〕44巻9号120頁
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権〕
 組合活動の一環として繰込のさい繰込場で行なわれ、また坑内等の作業現場その他で行なわれるはずであつた原告らA労組員の本件ゼツケン着用は、「覚」2項にいう就業時間内における柵内での情宣等に該当することは明らかであつて、その目的の当、不当はともかく「覚」2項に反する点で正当な組合活動であると断ずるに由ない。
 (四) そうだとすれば、そのような場合、会社はゼツケンを着用してきたA労組員に対し、「覚」違反を理由にその取りはずしを命じ得るか否かが次に問題である。
 ゼツケン着用の組合活動が労使間の労働協約に反する以上、右は原則的には肯定できよう。しかし、A労組員のゼツケン着用が、労働契約上の労務提供義務に抵触しない場合で且つ前記抽象的危険はともかく、具体的に会社係員ないし新労組員との間に紛争を生ぜしめ、ひいては会社の業務遂行に支障を与える何らの危険も存しないときは、会社としてはこれを受忍すべきであつて、単にそれが異様、不愉快であるとの感情的反発だけから、その取りはずしを命ずることは、権利の濫用として許されないといわねばならない。
 そして右原則の場合は、会社の就労拒否は何ら非難されないが、これに反して右例外の場合は、会社の就労拒否は労使の信義上社会的に十分非難され得ることとなり、結局就労不能について会社に帰責事由が存するとの結論に達しよう。
 (中略)
 前記(四)で判示したところから明らかなように、原告らA労組員の本件ゼツケン着用は、会社がこれを受忍すべき例外的な場合には当たらず、それ故「覚」違反を理由にその取りはずしを命じ、これに従わなかつた原告らA労組員の繰込を拒否した会社の措置は、労使の信義上、何ら非難の余地はない。