全 情 報

ID番号 03677
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 三井炭鉱事件
争点
事案概要  レッドパージに際して、会社が「事業の正常な運営を阻害する共産主義者又はその同調者」なる整理基準を設け、右基準該当者に対し退職を勧奨し退職者には特別の退職手当などを支給し、他方これに応じない者は解雇する旨通告していた場合において、右退職届を提出し異議なく退職手当等を受領していた者が、解雇の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法3条
日本国憲法14条
労働基準法2章
民法1条2項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1971年3月31日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ク) 601 
裁判結果
出典 タイムズ263号331頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 本件整理は、先ず「事業の正常な運営を阻害する共産主義者又はその同調者」なる整理基準に該当すると被告が認めた者に対し昭和二五年一〇月二一日付をもつて同月二三日(その後二四日に変更された)までに退職届を提出することを勧奨し、これに応じない者は同月二一日付で解雇すると共に、基準該当者には法定の予告手当(平均賃金の三〇日分)、従業員退職手当規定の会社都合解雇による退職手当及び一ケ月以内に社宅(寮)を退去する者については所定の帰郷旅費を支給し、勧奨に応じて退職届を提出した者に対してはこのほか平均賃金二ケ月分を特別加給として支給し、一方、不服ある者に対しては特審手続により救済の途を開くこととして実施されたものであり、しかも実施に当つては、基準該当者に対しては退職届提出勧奨と共に右諸手当支給の旨も告知されており、更に〈証拠〉によれば、被告は基準該当者に対し本件通告に対し不服ある場合には前記特審手続の申立ができる旨をもあわせて告知していることが認められ、また、その告知の方法は、〈証拠〉によつて認められるように、被告の労務課外勤係の職員が基準該当者方を戸別に訪れ、本人又はその親族に通告の内容を説明し、通告に不服ある者は労働組合に出向いて相談するよう附言して、本件通告書を交付することによつてなされているのである。しかして、本件通告は被告から基準該当者に対して退職届提出を勧奨することによつてなされた被告との雇用契約の合意解約の申込の誘因であると共に、右申込がなされないことを条件として基準該当者を解雇する旨の停止条件付解雇の意思表示であると解せられるところ、前記のような経緯の下に本件通告を受けた基準該当者である原告ら(但し吉岡を除く)が右勧奨に応じて前記争いのない事実のように被告に対し退職届を提出し、これに対し被告が前記諸手当を支払つて右退職届を受理し、かつ、その際、右原告らが雇用関係を終了させるにつき明白な異議を留めたと認むべき証拠のない以上、これによつて、右原告らと被告との間において雇用契約を解約する旨の合意が成立したものと認めて差支えないものというべきである。
〔解雇-解雇の承認・失効〕
 解雇の意思表示を受けた労働者が企業内で特別に認められた手続でその効力を争いそれが容れられないことが確定した直後頃雇用関係の終了を前提として支給される退職金、予告手当等をいずれもその金員の性質を承知した上で受領した場合には、右労働者は、その解雇の効力を承認し、今後右効力を争わない意思を使用者に対して表明したものと認めるべきである。(現に、本件において、右退職金等受領以来本訴が提起された昭和三五年九月八日までの約一〇年間近く、同原告が右解雇の効力を争う態度を示したものと認むべき証拠が存しないことからみても、同原告が右解雇の効力を承認していたことを十分に推察することができるのである)。従つて、同原告が被告に対しもはや右解雇の効力を争い雇用関係の確認を求めることは信義則上許されないと解するのが相当である。