全 情 報

ID番号 03696
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 東海大学事件
争点
事案概要  短大商学部の女性の助教授が、経歴を詐称したこと、学生教育に必要な学問上の知識、教授方法を身につけていないなど適格性に欠けるとして解雇された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1971年9月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和45年 (ヨ) 2346 
裁判結果 却下(控訴)
出典 時報560号96頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 大学が助教授を採用するにあたり、従前の学歴、職歴等を重視し、それが採否に影響すること、したがって、採用にあたって被採用者が虚偽の事実を告げて採用になれば、大学教育に重大な支障をきたすことは当然である。そして、採用後に経歴詐称があったことが判明した場合は、その詐称の程度と大学側の採用の際の調査の程度・方法を斟酌して、場合によっては解雇理由となりうるといえよう。
 これを本件につき検討すれば、右【1】はともかく、【2】は、同大学部助手兼付属高等学校教諭として、【3】は同病院において食事の運搬等を内容とする時間制雇用員として、【4】は、同大学専任講師として、いずれも当時勤務していたものである。また、疎明と審尋の全趣旨によれば、被申請人が申請人を採用する際の調査は、申請人の履歴書を信用するのみで、なんらの調査を行っていない。以上の事実から、申請人の前記経歴詐称のみでは、解雇理由とはならないというべきである。
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 申請人は、服装につき、旅行中にも大きな前掛けを着用するなど正常人と異った奇矯なものを身につける性癖があること、同僚や学生に対する態度が執ようで独善的であること、被申請人短期大学部の華道部雇問の地位にありながら、指導者の指導に容喙したり、同学部の学生に対し、一方的にカンニングと断定したり、同学部の修学旅行先で、父親に面会外出を要求する学生に対し、戸籍騰本を要求してこれを拒否するなどものごとの判断や思考方法が偏倚していることが認められる。
 (2) 大学の助教授は、高度の学問的素養と共に学生に尊敬されるべき人格を備えていなければならない。そのいずれを欠いても大学助教授としての適格性はない。而して、申請人の前記各事実は、通常人の言動と比較して異常であるといえるが、更に申請人の大学における教授内容、方法、識見などを検討しなければ、これのみで解雇理由とするに足りない。
 3 不適格性
 (1) 疎明と審尋によれば、つぎの事実を認めることができる。すなわち、申請人の前記被申請人短期大学部における授業内容は程度が低く内容がない。例えば、英語の試験において自己の作成した問題で、独自の日本語(この文章も一読して趣旨不可解である。)の解釈論に終始したこともある。
 申請人は、自分の担当科目の試験に際し、多数の学生に不可をつけ、とくに、昭和四四年度の後期試験では、受験者全員に不可をつけ、不可となった者には、午前一〇時から午後六時すぎにおよぶ試験(普通試験の時間は六〇分)をし、答案の作成に長時間を要した者を成績をよくし、早く答案を作成した者を再度不可とした。
 昭和四三年度後期定期試験の際申請人自ら試験の監督を行ったが、確認がないにもかかわらず、一学生がカンニングを行ったと断定し、その学生の弁解に一顧も与えなかった。
 申請人は、学生、職員に対し、その行動に異常に干渉し、ときには一、二時間にもわたって説教し、学生から排斥運動をうけたこともある。
 (2) 右各事実と前記2の各事実を総合して判断すれば、申請人は、大学の助教授としての学問上の素養、人格、識見においてその適格上欠けるところがあるものといわざるをえず、したがって、被申請人が、右を理由として申請人を解雇することは合理的な理由があるというべきである。