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ID番号 03776
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 日本冶金工業事件
争点
事案概要  起訴休職処分に付された者が刑事裁判の確定の事実を会社に申告せず、仮処分にもとづく賃金を労務の提供なく受領していたことを理由とする解雇につき、労働契約上の付随義務違反として、解雇権の濫用にあたらず有効とした事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 附随的義務の不履行
裁判年月日 1986年9月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 2191 
裁判結果 一部認容
出典 労働民例集37巻4~5号363頁/時報1211号129頁/タイムズ632号141頁/労経速報1269号3頁/労働判例482号6頁
審級関係 控訴審/03971/東京高/昭63. 5.31/昭和61年(ネ)2962号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-附随的義務の不履行〕
 起訴休職処分に処せられた従業員は、当該刑事裁判が確定したことにより処分事由が消滅した場合には、雇用契約上の附随義務として使用者に対しその旨を申告すべき義務があるものというべきである。
 もっとも、本件休職処分発令当時の被告の就業規則には右義務が明定されておらず、昭和五五年三月一日改訂の就業規則により初めて右義務が明定されるに至ったものであることは成立につき当事者間に争いのない乙第一号証の二及び弁論の全趣旨により認めることができるが、このように就業規則によって明定されていると否とによって右義務はその存否に消長をきたすものではないというべきである。
 これを本件について検討するに、原告に対する刑事裁判は昭和五一年五月二六日ころ確定したのであるから、これにより本件休職処分事由は消滅し、従って、原告は被告に対し右刑事裁判確定の事実を申告すべき義務が発生したのである。しかるに、原告は、刑事裁判確定後も被告担当者から再三に亘りその進行状況を尋ねられたにもかかわらず、会社が調べればよい、などと答えるのみで全く不誠実な態度に終始して右義務を敢えて履行しようとせず、同五六年一二月二八日に至って初めて刑事裁判が既に確定していた旨を述べたというのである。しかも原告は、同五〇年二月以降本件解雇処分に至るまでの間賃金仮払仮処分判決によって仮払金を受領し、その間の同五三年二月二〇日、刑事裁判確定の事実を明らかにすることなく賃金増額仮処分を申請し、この認容決定によりその増額分の支払をも受けていたというのである。
 このようにみてくると、原告の本件休職処分の間の被告に対する対応関係は、労務提供することなく被告の不知に乗じて長期間に亘り賃金のみを受領していたのと同一の評価を受けてもやむを得ないといえる。
 してみると、原告の右申告義務違背はその程度が著しく、被告の従業員としては真に不適当であって、就業規則一七条四号の労働能率劣悪者に該当するものというべきである。