全 情 報

ID番号 03968
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 三好屋商店事件
争点
事案概要  解雇された労働者が解雇予告手当、時間外労働についての割増賃金を請求した事例。
参照法条 労働基準法37条2項
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
裁判年月日 1988年5月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 13237 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例519号59頁/労経速報1329号3頁
審級関係
評釈論文 高島良一・経営法曹101号72~96頁1992年10月/末啓一郎・経営法曹97号34~40頁1991年6月
判決理由 〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 被告が、営業係の社員である原告に対し、法三七条に従った実働時間数に基づく計算をした割増賃金を支払っていなかったことが明らかであるが、時間外割増賃金に相当する趣旨の金員を特に区分することなく基本給と職務手当のなかに含めて支給していたことは否定できないと考える。
 そこで、時間外の割増賃金を基本給と職務手当に含めて支払うこと、換言すると、基本給・職務手当と時間外割増賃金とを特に区分することなく一体として支払うことが、法三七条との関係で適法であるかを検討しなくてはならない。法三七条は使用者に対し労働者に時間外労働をさせた場合には通常の労働時間又は労働日の賃金に加えてその計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金の支払いを義務付けているが、その趣旨が法定の割増賃金を確実に使用者に支払わせることにより、超過労働を制限することにあることからすれば、割増賃金が法所定の計算方法により厳格にかつ機械的に算出されることが望ましいのはいうまでもない。だが、計算方法が法の定めるとおりでなくても、例えば、一定の手当を支払うことによって時間外割増賃金の支払いに替えることも、結果において割増賃金の額が法定額を下回らないように確保されている場合まで、これを敢えて本条違反とする必要はないであろう。しかし、割増賃金の額が法定額を下回っているかどうかが具体的に後から計算によって確認できないような場合には、そのような方法による割増賃金の支払いは本条の趣旨に反していることが明らかであるから無効と解するのが相当である。
 (中略)
 時間外労働賃金は管理者が時間外労働を命じた場合か、黙示的にその命令があったものとみなされる場合で、かつ管理者の指揮命令下においてその命じたとおり時間外労働がなされたときにのみ支払われるべきものである。そして、一般に使用者が従業員にタイム・カードを打刻させるのは出退勤をこれによって確認することにあると考えられるから、その打刻時間が所定の労働時間の始業もしくは終業時刻よりも早かったり遅かったとしてもそれが直ちに管理者の指揮命令の下にあったと事実上の推定をすることはできない。そこで、タイム・カードによって時間外労働時間数を認定できるといえるためには、残業が継続的になされていたというだけでは足りず、使用者がタイム・カードで従業員の労働時間を管理していた等の特別の事情の存することが必要であると考えられる。
 (中略)
 就業開始前の出勤時刻については余裕をもって出勤することで始業後直ちに就業できるように考えた任意のものであったと推認するのが相当であるし、退勤時刻についても既に認定した営業係の社員に対する就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労とが一致していたと見做すことは無理があり、結局、原告についてもタイム・カードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することは出来ないと見るのが相当である。