全 情 報

ID番号 04007
事件名 懲戒処分取消請求事件/転任処分取消請求事件
いわゆる事件名 前橋若宮郵便局事件
争点
事案概要  顧客の預金手続きに関する行為に横領行為があったとしてなされた停職処分が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
国家公務員法82条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1988年9月13日
裁判所名 前橋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 6 
昭和59年 (行ウ) 4 
裁判結果 棄却
出典 労働判例527号24頁
審級関係
評釈論文 鈴木正己・地方公務員月報311号43~50頁1989年6月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 右認定事実によれば、原告は、昭和五六年一二月二九日、公金である本件現金過剰金二万五〇〇〇円を、前記1(六)の手続きによる正規の受入計理をすべきであるのにこれをせず、うち二万四〇〇〇円を自己名義の積立郵便貯金に預入処理するとともに、一〇〇〇円を原告が当時着用していた事務服の胸ポケットに入れて横領したものというべきである。
 原告は、本件現金過剰金を横領したことを争い、その理由として、右現金過剰金を自己名義の積立貯金に預入処理したのは、Aから現金二万五〇〇〇円を受け取っていたのにもかかわらず、これを失念しB局長をしてCに対し謝罪させることになってしまったうえ、かねてから同局長とは、きわめて折り合いの悪かったことから、現金過剰金の生じたことを同局長に知られることなく、密かにAの通常貯金に預入処理し、それとともに、翌日の業務に必要なつり銭を確保しようとしたためであり、また、一〇〇〇円を事務服のポケットに入れたのは、自己の所持金と区別して保管するためであり、右事務服は一〇〇〇円を入れたまま、局内で使用している自分のロッカーに入れておいたのであって、原告には不法領得の意思がなかったと主張する。
 右の主張は、結局、原告には自己の利益を取得する意思がなかったというに帰すると解されるが、横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうのであって、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではなく、又占有者において不法に処分したものを後日に補填する意思が行為当時にあったからとて横領罪の成立を妨げるものでもないのである。(最判昭和二四年三月八日刑集三巻二七六頁参照)。したがって、仮に原告の主張するとおり、原告に利益取得の意図がなかったとするも、それが故に原告の前記行為が横領罪を構成しないということはできないのであるから、原告の主張は失当である。
 三 以上のとおり、原告は本件現金過剰金を横領したものであり、右行為は国家公務員法九八条一項、九九条に違反し、同法八二条各号に該当するから、本件懲戒処分は適法である。