全 情 報

ID番号 04092
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 カタバミ会事件
争点
事案概要  保育園長に対する職務能力の欠如、不正行為を理由とする降職処分につき、権利の濫用にあたるとして無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務能力
裁判年月日 1985年1月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 13446 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1214号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務能力〕
 ところで、被告は、本件降職処分の理由として、(1)原告には園長としての能力が欠けていたこと、(2)保育園の経費は公的補助金と保護者負担金(保育料)のみで賄うべきであり、それ以外の費用を保護者から直接徴収することは認められていないところ、原告は、Aとともに、昭和五四年五月から同年一二月までの間、教材費等の名目で合計五五万八五〇〇円を保護者から徴収したこと、の二つをあげ、(1)は解雇事由を定めた被告の当時の就業規則一三条二号の「勤務成績又は技能が不良で職員としての適性を欠く場合」に、(2)は制裁事由を定めた同規則五〇条三号の「故意又は重大な過失により法人に損害を与えた場合」及び同条七号の「その他社会福祉施設の職員としてふさわしくない非行があった場合」に、それぞれ該当するから、本件降職処分は合理的理由に基づくものであると主張する。しかしながら、原告に園長としての能力が欠けていたことについては、(人証略)の証言中に一部これをうかがわせる事実を指摘した部分もあるものの、これらはいずれもさ細な事柄であり、しかも客観性に乏しく、前記三の(五)で認定した事実をも併せ考えれば、これだけでは原告に園長としての能力が欠けていたとは到底認めることはできず、他にこれをうかがわせるに足りる証拠はない。もっとも、原本の存在及び成立に争いのない(書証略)(被告の緊急理事会議事録)によれば、昭和五五年五月九日当時、B保育園の運営が円滑さを欠いており、何らかの対策をとる必要があったことは一応うかがわれるけれども、同書証からは、その原因が原告の園長としての能力の欠如にあったとは必ずしも断定できない。かえって、前記認定事実によれば、保育園の運営に混乱をきたした原因は、被告の管理運営が実質的には部外者ともいうべきAらによってなされていたことにあるものと認められる。また、被告の主張する、いわゆる金銭の不正徴収行為は、前示のとおり、昭和五五年六月一三日に実施された東京都の検査により初めて指摘されたものであるから、本件降職処分がされた時点(同年五月三〇日)においてはいまだ問題とされていなかったはずであり、しかも、この件が本件降職処分と無関係であることはC理事長自身も認めているところである。更に、金銭を徴収するに至った経緯が前記認定事実三の(二)及び(三)記載のとおりであり、園長である原告の反対を押し切ってAとその命を受けたDにより実施されたものである以上、その責任をもっぱら原告に負わせるのは著しく酷というべきである。
 以上によれば、被告が本件降職処分の理由として主張する事由のうち、(1)については被告主張のような事実は認められない。また、(2)については金銭を徴収するに至った経緯及び原告が当時置かれていた状況が前示のとおりである以上、これを本件降職処分の理由とすることは著しく妥当性を欠くものというべきである。そうすると、本件降職処分は合理的理由に基づかないものであるから、権利の濫用として無効というべきである。なお、被告は、仮に本件降職処分が合理的理由に基づかないものであるとしても、原告は、昭和五五年一〇月ころ、B保育園の事務室において、C理事長に対し、「副園長にしてくれ」と申し入れたこと、原告は、本件降職処分後二年余りの長きにわたり、副主任として働き、かつ、それに対応する給与を異議なく受領してきたことなどから、原告は本件降職処分を黙示的に承諾したと主張する。しかしながら、原告がC理事長に対して「副園長にしてくれ」と申し入れたことについてはこれを認めるに足りる証拠がないうえ、仮にそのような事実があったとしても、それだけでは原告が本件降職処分を黙示的に承諾したと認めることはできない。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(書証略)によれば、原告は被告理事会の意向に従って昭和五六年度一年間は裁判所への救済の申立てをしなかったのであり、昭和五七年二月及び三月には被告の各理事に対し口頭又は書面で地位の回復を望む旨伝えていること、更に、同年五月及び六月にも早急に園長としての地位の回復を望む旨の要望書を被告あてに提出していることが認められるから、原告が本件降職処分を黙示的に承諾したものと解することはできず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。