全 情 報

ID番号 04122
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 人吉営林署大塚事業所事件
争点
事案概要  山間部で働く営林署員の乗車したマイクロバスが土石流で川に転落し右署員が死亡した事件で国に対して損害賠償の請求がなされた事例。
参照法条 民法415条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1985年7月3日
裁判所名 熊本地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 440 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ567号230頁/労働判例462号37頁/訟務月報32巻5号859頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 国は公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理、又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を有するものである。そこで、本件大塚林道について、被告に右安全配慮義務の一内容として通勤路としての整備義務があるかどうかを検討するに、右林道は、前記第二の一及び二のとおり、本件災害当時、人吉市道に該当し、人吉市が管理責任を有し(同法一六条一項)、維持修繕義務を負つていた(同法四二条)が、右林道が大塚事業所にとつても職員の通勤、作業用道路として不可欠であつたことから、本件災害発生地を含む右林道の維持補修は現実には人吉営林署が担当し、その費用も同署が負担してきたのである。そうして、前記第二の三のとおり大塚事業所に所属する第二班休憩所及び同班の盤台等の置かれた地理的条件並びに本件林道自体の場所的環境に鑑みれば、かかる山間部で職務に従事する者にとつては、本件のような豪雨その他の風水害等に際し、本件林道は下山路として極めて重要であるとともに気象状況によつてはある程度の危険性を伴なうことが予測される。このような場合には国は前記安全配慮義務の一内容として、通勤路・作業用道路としての本件林道の安全性を確保するため、これを整備すべき業務を負うものと解するのが相当である。
 (中略)
 右事実及び叙上認定の全事実を総合して検討すると、本件災害当日A主任が被災者五名を就労させたことは相当であつて、安全配慮義務に反するものということはできず、また、就労後における豪雨及びこれによる災害の発生を予測しなかつたことについて同主任に故意、過失があるものとは認められない。この点についての原告の主張は失当であつて、採用できない。