全 情 報

ID番号 04188
事件名 雇用関係不存在確認本訴請求および地位確認反訴請求事件
いわゆる事件名 日本合成ゴム事件
争点
事案概要  四日市工場から千葉工場への配転命令拒否を理由とする解雇につき、妻と別居になることはありうるとしても右命令を人事権の濫用にあたるとはいえないとして、解雇有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1970年6月11日
裁判所名 津地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 245 
昭和44年 (ワ) 11 
裁判結果 本訴認容,反訴棄却
出典 労働民例集21巻3号900頁
審級関係
評釈論文 野崎薫子・ジュリスト478号155頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 以上の諸事実をあれこれ併せ考えると、被告と会社間の労働契約には、勤務場所は、差当り四日市工場とするが、将来会社において他所に工場を新設した場合には当然四日市工場以外の工場へも会社の業務上の必要があれば転勤する旨の労働条件が含まれていたとみるべきであつて、被告主張の如く、就労場所を四日市工場に限定する旨の特約があつたとみることは到底できない。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 労働契約中に、労働者は使用者の業務上の必要があれば転勤に応ずる旨の条件が含まれている場合でも、業務上の必要性に比較して、転勤による当該労働者の損害が著しいときには当該転勤命令が人事権の濫用として無効となる場合があると解されるので、これを本件について考えるに、被告には津市に所在する企業に勤務する妻があり(この点は当事者間に争いがない)、被告が千葉工場へ転勤すると被告主張の如く、距離的関係上被告は妻と別居するか、妻が右企業を退職するか、いずれにしても被告が相当の不利益を蒙ることは否めないが、いずれも成立に争いのない甲第九、三〇、三一号証、弁論の全趣旨から成立の認められる甲第二八号証によると、会社は、昭和四三年九月上旬以降数次にわたり被告に本件転勤の業務上の必要性等について説明をし、説得を重ねたが、その際、当時四日市工場の人事課長であつたAが被告に、もし被告の妻が千葉市で働らく希望があれば、その斡旋をする旨申し入れていること、被告の妻が千葉市で働らかなかつたとしても、被告が会社から支給される給与のみで標準的な生活は維持しうること、千葉工場では被告のためいわゆる三DKの社宅が用意されていて、厚生施設も完備しており、生活環境は四日市に比べて悪くないこと、千葉工場においても被告がこれまで四日市工場で収得した経験、技術が十分生かされるうえ、昇進の道も四日市工場より開けていることが認められるのであるから、被告が本件転勤命令に従つて千葉工場へ転勤しても、その生活関係を根底から覆えすような犠牲を強いることにはならないのみならず将来の昇進という点ではむしろ被告にとつて有利な転勤であると言い得るところ、一方、いずれも成立に争いのない甲第二九、三一、三二号証によれば、会社としては千葉工場の欠員一名を被告担当の職種であるブタジエン関係の工員から補充しなければならない事情のあつたことが認められる以上本件転勤命令が人事権の濫用であるとは到底いえず、この点に関する被告の主張も採用できない。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 (三) 以上の諸事実に鑑みれば、本件転勤命令は会社の業務上の必要という正当な事由に基くものであり、被告の右転勤命令拒否は理由のないものというべく、右転勤命令拒否を理由とする本件解雇は、人事の公正、企業の秩序を維持するというまことにやむをえない事情からなされたものであるといわざるをえない。(本来懲戒解雇に該当する事由をもつて、いわゆる普通解雇をすることは何等さしつかえなく許容される。)
 五 よつて本件解雇は有効であり、被告と原告会社間の雇傭関係は昭和四三年一〇月一五日限り消滅したというべきであるから、原告の本件本訴請求は理由がある。