全 情 報

ID番号 04205
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 高橋ビルディング事件
争点
事案概要  試用期間中のセールス担当社員が特段の社用もなく喫茶店に入っていたことを理由とする解雇につき、解雇権濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1970年10月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ヨ) 2445 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 時報617号92頁
審級関係
評釈論文 川崎武夫・判例評論148号139頁
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 しかし反面被申請人会社においても教育的観点から試用期間中の者に若干責められるべき事実があるとしても、これに対して直ちに解雇をもって臨むことなく合理的な範囲内でその矯正、教育に尽すべき義務があるものといわねばならない。ところで、試用期間中の従業員として一人前の営業部員になるべく教育、研修を受けている身でありながらこれを省りみず、濫りに喫茶店へ立入って職場規律に違反したことは強く責められて然るべきものである。しかしながら、申請人ら三名は特に前もって計画的に喫茶店へ入ったというものではなく、また遊興娯楽のためというよりは同じ業務に従事している新入社員同志として仕事のことについてお互いに話をしているうちつい話がはずんで喫茶店へ入ったものであり、その行為の目的、態様において特に悪質とは目し難い。のみならず、申請人が右以外に幾度となく濫りに喫茶店に入ったことを認めるに足る疎明もなく、しかも始末書提出後は、申請人は従来の言動を反省し、以後上司、先輩に対する態度、言葉使いにおいてさして問題としなければならない状況になかったことが窺われ、しかも右始末書の提出は申請人の粗野な言葉使いを問題とするものであるのに反し、喫茶店の件は申請人の職場離脱ないし命令不服従を問題とするものであって、その性質において異なるものがあると考えられこれをもって喫茶店の件に対する重要な情状として考慮することは適切ではない。
 以上認定の諸般の事情を合せ考えると、申請人が一回喫茶店に入った事実をとらえて申請人を直ちに解雇処分に付するのは社会通念上いささか酷に過ぎ解雇権の濫用であると言わざるを得ない。