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ID番号 04206
事件名 不正競業行為禁止仮処分命令申請事件
いわゆる事件名 フォセコ・ジャパン・リミティッド事件
争点
事案概要  退職者の競業避止義務違反に対し、競業行為禁止の仮処分決定がなされた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法90条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
裁判年月日 1970年10月23日
裁判所名 奈良地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ヨ) 37 
裁判結果 認容(控訴)
出典 下級民集21巻9・10合併号1369頁/時報624号78頁
審級関係
評釈論文 三島宗彦・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕51頁/田村諄之輔・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕56頁/播磨良承・法律時報45巻9号162頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 1 弁論の全趣旨により成立の認められる疎甲第七号証、及び前出の疎甲第一六ないし一七号証によれば、債務者Y1は債権者の研究部では製造部から持ち込まれる原料の処方や温度等の作業諸条件の検討、製造後の製品検査に従事し、昭和四三年八月からは豊川工場の検査課長として製品の品質管理にあたつていたこと、A製品の製法について特に知識のあること、又債務者Y2は研究部所属中は同Y1と同様の職務に従事しており、大阪支社においては、営業部員に対する技術指導等に従事していたことが認められ、右認定に反する疎明はないので、債務者両名は、債権者の技術的秘密を知り、知るべき地位にあつたと言うことができる。
 2 そして債務者両名が昭和四四年六月債権者を退職すると、まもなく、同年八月二九日にB会社が設立され、両名は取締役となり、直ちに債権者製品と同様の製品の製造販売活動を行つていること前認定のとおりであるので債務者両名の有する知識がB会社において大きな役割を果していることは十分推認できるところであり、従つて、債務者両名は、競業者たるB会社に対し、債権者の営業の秘密を漏洩し、或いは必然的に漏洩すべき立場にあると言え、債権者は本件特約に基いて債務者らの競業行為を差止める権利を有するものといえる。
 五 抗弁に対する判断
 債務者らの主張は、要するに本件特約が債務者にとつて著しく不利益なものであつて、債務者の生存をすら脅かすものであり、公序良俗に反して無効であるというにある。競業の制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は、公序良俗に反し無効となることは言うまでもないが、この合理的範囲を確定するにあたつては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立つて慎重に検討していくことを要するところ、本件契約は制限期間は二年間という比較的短期間であり、制限の対象職種は債権者の営業目的である金属鋳造用副資材の製造販売と競業関係にある企業というのであつて、債権者の営業が化学金属工業の特殊な分野であることを考えると制限の対象は比較的狭いこと、場所的には無制限であるが、これは債権者の営業の秘密が技術的秘密である以上やむをえないと考えられ、退職後の制限に対する代償は支給されていないが、在職中、機密保持手当が債務者両名に支給されていたこと既に判示したとおりであり、これらの事情を総合するときは、本件契約の競業の制限は合理的な範囲を超えているとは言い難く、他に債務者らの主張事実を認めるに足りる疎明はない。従つて本件契約はいまだ無効と言うことはできない。
 六 保全の必要性に対する判断
 前出の疎甲第八号証の一によれば、昭和四四年一〇月二六日債権者の得意先C会社において、B会社が債権者製品のDに相当するB会社製品の納入をとりつけたため債権者製品のDが納入停止になつたこと、同年一一月五日債権者の得意先のE会社よりB会社製品のFを購入するからという理由で債権者製品のGが納入停止となつたことなど債権者主張の如くB会社が債権者の得意先を蚕食しつつある事実が認められ、これに反する疎明はない。従つて右事実によれば、このまま放置すればB会社は益々債権者の得意先を侵奪して、債権者に回復しがたい損害を与えるであろうことは容易に推認できる。よつて、本件仮処分申請はその必要性があるものと言わなければならない。