全 情 報

ID番号 04207
事件名 雇傭関係存在確認請求事件
いわゆる事件名 日本国有鉄道事件
争点
事案概要  勤務時間中の飲酒等を理由とする機関士助士に対する懲戒免職処分につき、解雇権の濫用にあたり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1970年10月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和44年 (ワ) 14343 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報622号107頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 (4) 前記(4)の行為について。
 原告は据付気缶室に常駐しないで、他区乗務員休憩室に滞在したものであるが、諸機掛代務の場合、所定の作業に従事するとき以外は乗務員詰所で休息していたというのが慣行である以上、原告が乗務員詰所に居たのであれば別として、これとは異る他区乗務員休憩室に約三時間四〇分にわたり滞在していたことは、右他区乗務員室に滞在することについて所属長の許可を得ていたこともしくは正当の事由のあったことについての主張、立証のない本件においては、前記就業規則第五条第六六条第六号に該当するものといわなければならない。
 また、原告が二回にわたり汽笛の吹鳴を怠ったことは、過失によるものであるとはいえ、諸機掛代務としての職務の懈怠であるから前記就業規則第六六条第六号に該当するものと解される。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 よって、進んで本件懲戒免職は、原告主張のように解雇権の濫用にあたるか否かについて検討する。
 先ず、前記(一)の(1)で認定した飲酒行為について。
 原告がビールを飲んだのは、前記認定のように列車の待ち時間中の夕食時であるとはいえ勤務時間中であり、かつこれから列車に乗務しなければならない関係にあったのであるから、列車の安全輸送に従事する機関助士の職責から考えると、甚だ好ましくない行為というべきである。しかしながら、《証拠略》を総合すると、原告がビールを注文した時、原告の直接の上長たるA機関士は何んらこれを制止することなく、かえって原告と一緒にそのビールを飲んだものであることが認められ、また前記認定のように夕食時から列車乗務までは約二時間の間隔があり、原告が飲んだビールの量は僅かコップに一杯程度のものであるから、右乗務時には殆んど酒気を帯びていなかったものと推認されるし、《証拠略》によると、A機関士および原告は右夕食後新小岩-越中島一往復の乗務についたが、平常どおりに列車を運転し、異状はなかったことを一応認めることができる。右の各事情に鑑みれば、右原告の飲酒行為をもって直ちに懲戒免職に値いする程の事由に該るものとは認め得ない。
 次に、(一)の(2)で認定した遅刻、早退について。
 原告が無断遅刻、早退をしたことは職場の規律をみだすものであり、ことに遅刻については、原告は胃が悪いため医者に行きたいとの理由をあげて上長の了解を得ようとしていたのに拘わらず、動労千葉地方本部と当局との団体交渉の傍聴に参加して遅刻したものであるから、その情状は必ずしも軽いとはいいがたい。しかし当日の勤務は出勤予備であり、出勤予備の場合は、その出勤、退庁時間の厳守は必ずしも厳格に行われていなかった事実を考慮すれば、このため業務の運営に著しい支障を生じたという特段の事情が認められない本件にあっては、右遅刻、早退をもって懲戒免職に値いする程重大な規律違反に該るものとは認めがたい。
 さらに、前記(一)の(4)で認定した職場離脱ならびに汽笛吹鳴の懈怠については、前にこの点につき認定した事実に鑑みれば、職場離脱の時間が約三時間四〇分に亘ったことを考慮に入れても、いまだ懲戒免職に該る程の規律違反であるとはなしがたい。
 以上説示のとおり、原告のなした上記飲酒行為、遅刻、早退ならびに職場離脱および汽笛吹鳴の懈怠は、それ自体独立には懲戒免職の事由には該らないのみならず、これらを総体的に評価しても、いまだ懲戒免職に値いするものとは認めがたい。したがって被告総裁のなした本件懲戒免職は苛酷に失し、懲戒権行使の裁量の範囲を著しく逸脱したものであって、解雇権の濫用にあたるものとして無効であるというべきである。