全 情 報

ID番号 04256
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 東京科学事件
争点
事案概要  工場女子手洗所内の壁その地にマジックインキで会社幹部を誹謗する落書きを行ったこと、始業直前に無断で多数のビラを持込みコンベアの上に流して配布したこと等を理由とする女子従業員の懲戒解雇につきその効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1969年7月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (ヨ) 2251 
裁判結果 一部認容
出典 時報581号75頁
審級関係
評釈論文 岸井貞男・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕135頁/菊谷達弥・季刊労働法77号139頁/小西国友・労働経済判例速報712号19頁/瀬戸正義・判例評論133号2頁/同134号2頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 雇用契約関係を終了せしめるには、解除の意思表示をすれば十分であって、別段解除の理由即ち解雇の理由を告げる必要のないのが原則である。現今世間一般に、解雇の場合懲戒解雇と諭旨解雇の二種類の法律概念が存在するように考えられている。なる程、企業は、その就業規則中に懲戒に関する定めがない場合でも、企業秩序を紊乱した者に対して、その秩序を維持する必要上、懲戒処分を行うことのできる本来的な権限を有しているものであるが、その懲戒は、飽くまで対内的関係において行使できるものに過ぎず、国家が国民に対して刑罰を科するのとは違って、対外的な関係においてまで懲戒処分に付することは許されないものであるというべきである(一応公法関係を除く。)。対外的には、例えば解雇の場合について見るに、そこには、法律上即時解雇と予告解雇の二者があるに過ぎないのであって、その他に懲戒解雇という法律概念が存在するものでないのは勿論、懲戒解雇という法律構成要件の存在自体を承認することもできない。懲戒解雇という概念は、ショップ解雇・整理解雇・破産に因る解雇その他の概念と共に、それらと同列に観ずべき事実上の概念に外ならず、解雇の原因の一面を表現するだけのものといわなければならない。従って、企業が従業員を解雇する場合には、単に「解雇する。」と言いさえすれば良く、「懲戒解雇する。」と言う必要は毛頭存在しないのである。企業としては、その解雇が予告期間を置かない(予告手当を支払わない。)即時のものか、予告期間を置く(予告手当を支払う。)ものであるかを定めれば十分である、唯、即時解雇については、労働基準監督署長の除外認定を受けない限り、即時の解雇としての効力が生じないだけで予告期間を置くべき解雇となるに過ぎないものというべきである。