全 情 報

ID番号 04338
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 南海電気鉄道事件
争点
事案概要  私鉄の直営の遊園地食堂の調理師に対する線路工手への配転命令の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 1967年5月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ヨ) 3594 
裁判結果 認容
出典 労働民例集18巻3号601頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 申請人は同二八年中学校を卒業すると将来調理師として身をたてることを志し、まず申請外Aが料理長をしていたグリルBに入り以来四年間同所において同人の指導のもとに主として洋食調理の見習をしていたが、同三二年二月頃、会社七〇周年事業の一としてC会社が設立され、みさき公園の経営に当るに際し後に同社の支配人についで専務取締役になつた人で当時会社株式課長をしていた申請外Dが右Aをみさき公園食堂の責任者として招聘したのに伴い申請人は同年三月二〇日右AとともにC会社に入り以来同食堂で調理師として勤めその間調理師の講習を受け調理師の資格を取得した、同三九年二月一六日今までC会社に委託して行つていた同公園の経営を解除して会社が自らの手によつて行うようになつてからは成程会社には調理師なる職名はなかつたので正式の職名は経営手として採用されたが、経営手としての本来の業務内容は場内諸施設の整備作業、動植物の育成の監視、場内の警戒監視、機械器具の運用手入等であつて調理は含まれておらず、右処遇はC会社と会社の営業内容が異なるにかかわらず、さしあたつてとりあえず前者の従業員を後者の職務体系にそのまま繰り入れたことの不合理から生じた便宜的なものでその実際の姿は観光開発の従業員は幹部を除き殆んど従来と同じ条件で会社に雇傭されることとなつたのに伴い申請人も引続き同食堂で調理の業務に従事して来たことが疎明される。
 (中略)
 前記一二三認定の事実関係に基づき本件配転をみるに、Aが言うように申請人の調理師としての技術は客観的にみる場合甚だ未熟で未だ一人前の調理師として物足りないとしても同人は一〇余年の間調理一筋に打込み主観的には調理の技術者をもつて任じていることは無理からぬところであり、調理の職種が労働契約の内容となつているか否かにかかわりなく申請人にとつては調理以外の職種に就くことはまして全然職種を異にし一般的に希望者の少い、どちらかといえば嫌悪するものと思われる線路工手にその意に反し配転することは申請人にとつては大なる苦痛を与えその及ぼす影響は前記認定した配転例の比ではないばかりか、過去の経験を水泡に帰せしめるもので著しく不利益を与えるものであるといわなければならない、これにひきかえ証人E(二回)同Fの証言によつて疎明されるところの本件配転に対する会社の配慮は就中食堂関係に対するそれは狭山遊園内食堂は同三九年の直営以来業務も軌道にのつていること、中モズ事業所のそれは会社高野線沿線の者が勤務していること、友ケ島事業所のそれは本件配転の直前に人事異動したばかりであること、淡輪公園のそれはあまり近くで配転にならないことからそれぞれの部所に配転することは出来ないというにあるが、右程度では未だ適正な配慮がなされたと認めるに足らず他に本件配転を必要とする事情は認められない。そうだとすれば本件配転は事実上の解雇に等しく配転に名をかりた解雇であり会社に与えられている労働の態様決定権の範囲を逸脱するものであり又降職処分にとどめんとした前記懲戒委員会の決議の趣旨にも反し二重の制裁を与えるもので人事権を濫用するものといわざるを得ない、申請人のこの点の主張は理由がある。
 (中略)
 以上の説示のとおり本件配転は人事権の濫用にわたるもので無効であり、申請人は会社営業局事業部事業課みさき公園食堂の調理師たる地位を有するものであるところ(経営手たる職名が便宜的なものであること前記のとおり)申請人が本件配転を拒絶し他方会社は申請人を住ノ江保線区の従業員として取扱い同人が同公園食堂に勤務することを拒絶していること、同年一〇月一八日以降賃金が支払われていないこと、本件配転当時の申請人の賃金が月額二二、〇〇〇円であつたこと、その後同四〇年四月一日付で二四、三〇〇円に、更に同四一年四月一日付で二五、九五〇円にそれぞれ昇給されていること、賃金の支払日が毎月二五日であることは当事者間に争いがなく申請人が賃金労働者であることは弁論の全趣旨により明かであるから(申請人が三九年一〇月一八日以降欠勤届を会社に提出していることは同人において明かに争わないところであるが右届は従来の職場での就労を拒否されていること本件配転拒否を継続するとき解雇をもつてのぞまれることを慮つてなされたもので必ずしも本心にかなつたものでないことがうかがえるから右行為の故をもつて賃金請求権は消滅するものと解することはできない)本件仮処分は理由がある。