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ID番号 04339
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日野自動車工業事件
争点
事案概要  自動車製造メーカーの工場工務部材料管理課出荷係から勤労部人事課への配転命令を拒否したことにより解雇された者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1967年6月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和39年 (ヨ) 2206 
裁判結果 認容
出典 労働民例集18巻3号648頁/時報488号49頁/タイムズ207号227頁
審級関係 控訴審/00270/東京高/昭43. 4.24/昭和42年(ネ)1332号
評釈論文 吾妻光俊・季刊労働法65号58頁/山本吉人・労働法学研究会報722号1頁/片岡昇・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕41頁/本多淳亮・判例評論107号35頁
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 債権者が養成工として会社に雇われたものであつて、入社後直ちに日野工場生産技術部工機課作業係に配置されたことは当事者間に争がないところ、証人A及びBの各証言竝びに債権者本人尋問の結果によれば、会社の養成工は採用後、少くとも三年間を養成課程とされ、会社の工場現場の一定部置に配置されて、機械の修理、仕上等の現場労働に服するかたわら、会社が付置するC技能者養成訓練所(後にD高等学園と改称)において、機械工、仕上工、プレス工、組立工に分類されて、週二回位ずつ、工業高等学校程度の数学、語学、理科等、工場現場労働に必要な工業教育を受け、右課程終了後は、作業員として、引きつゞき工場現場において作業労働、即ち会社の製品たるべき自動車の機械加工、組立等を直接行なう直接工の労務又はその部品等の管理を行なう等の間接工の労務に服するようになることが一応認められる。そして、債権者が前記のように養成工として日野工場の生産技術部工機課作業係(後に同部工機第一課作業係と改称)に配属後、機械の分解修理作業に従事し、昭和三五年三月一五日養成課程を終了し、ひきつゞき作業員として右作業に従事し、その後も同年五月二五日同課整備係に配置転換されてから、一旦、機械修理の部品調達及び修理工程の樹立等、主として机上の事務に従事したが、昭和三七年四月頃から再び同係(当時作業係の業務の一部を吸収していた)において機械の分解修理作業に従事し、次いで同年八月一六日頃同部設備課動力係(昭和三八年一〇月工務部材料管理課出荷係に編入された。)に配置転換されてからはバツテリー充電作業に従事したことは当事者間に争がない。また、前出乙第二一号証によれば、会社の就業規則二条は、「この規則において従業員とは事務員、技術員、作業員及び整備員をいう。」と規定し職種の別を示していることが疎明される。
 してみると、債権者と会社との間に特段の合意があつたのでない限り、前記雇傭においては債権者が会社に給付すべき労務を就業規則上、事務員と区別される職種たる作業員としての工場現場の作業労働とする旨が暗黙のうちに合意されたものと認めるのが相当である。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 したがつて、会社が債権者に命じた日野工場勤労部人事課人事係の入社希望者に対する面接及び身上調査の業務は債権者が会社との雇傭契約にもとずき会社に給付すべき労務の範囲に属しないものという外はないが、使用者が労働者に対し指揮命令権を行使して配置転換をして、従前と異なる労務の提供を命じうるのは労働者が労働契約によつて使用者に提供すべきものと定めた労務の種類ないし範囲に限られ、その範囲を出たのでは、その労働契約の趣旨に反するから、会社の債権者に対する右命令によつて、債権者が会社に対しこれに応じる労働を給付すべき義務を負担するものでないことは明らかであり、また仮に右命令を職種に関する合意の変更申込であると解するとしても、債権者がこれを拒絶したことは、すでに認定したところであるから、これによつて、所期の効力を生じるに由はない。
 三 果して、そうだとすれば債権者が会社の右命令に従わなかつたのは会社の就業規則四六条に該当するとはいうことができず、前記解雇理由は自ら、その根拠を欠くのみでなく、さような理由で解雇するのは会社の恣意にすぎるから、会社が債権者に対してなした解雇の意思表示は権利の濫用に該当し、その効力を生じない。