全 情 報

ID番号 04340
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 北交通株式会社事件
争点
事案概要  会社の従業員で組織している親睦会の会長在任中に融資金を着服横領したとして懲戒解雇された者が、賃金仮払の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 1967年6月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ヨ) 2253 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集18巻3号671頁/タイムズ209号227頁
審級関係
評釈論文 渡辺章・ジュリスト410号115頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 会社の就業規則五四条一項は「従業員が次の各号の一に該当するときは懲戒処分をする。」、二項は「懲戒は本章(第一〇章)に定める基準に従い社長が行う。1この規則又はこの規則にもとずいて作成させる諸規則に違反したとき。2職務上の義務に違反し又は職務を怠つたとき。3従業員としてふさわしくない行為のあつたとき。」、同五五条一項には「懲戒は次のとおりとする。1懲戒解雇、2格下げ、3出勤停止、4業(乗)務停止、5減給、6譴責」、同条二項は「懲戒解雇は次の各号の一に該当する場合これを適用する。但し情状によつてその処分を軽減することがある。」、同第2号は「会社或いは会社の保管している金品を横領窃取したとき。」、同項18号は「業務に関し会社を欺く等故意又は重大な過失により事業上に損害を与えたとき。」、同項31号は「前各号のほか規則五四条に該当し、その情が著しく重いと認めたとき。」と定めていることが認められるが、前記認定の申請人の所為が右所定の懲戒事由に該当するものでないことは、あらためて説明を要しないであろう。
 もつとも、前記認定の事実によれば、申請人は親睦会の会長として退職積立金を二万円の限度で会員に融資する方針を採りながら、その実際の運用上、一部会員に対し右限度額を超える貸付をし、ことに正副会長たる申請人およびAには前記借入金一五万円の八割以上にあたる金額を貸付けたのであるから、それだけ他の会員に対する融資の利便を減じたものというべきであつて、親睦会ないし、その会員から、役員としての地位を乱用した背任的行為であるとして非難を受けてもやむを得ないであろうが、使用者が就業規則に基づいて従業員に懲戒処分を課し得るのは、その行為が会社の企業秩序を乱し、または乱す虞があるため、企業秩序を回復しまたは維持するに必要がある場合に限られると解されるとともに、申請人の対親睦会関係の右のような態様、程度の所為があつたゞけでは、会社の秩序を維持するため、申請人に懲戒処分をもつて臨むべき必要があつたものとは認め難いから、申請人の行為をもつて会社の就業規則五五条二項31号または五四条二項3号に該当するということはできない。
 (三) そのほかに申請人を懲戒解雇処分に付すべき事由が存したことについては、なんらの主張も、疎明もない。
 三 そうだとすれば、会社が申請人に対し懲戒権の行使としてなした解雇の意思表示は懲戒のいわれがない以上、その効力を生じるに由がないというべきであるから、申請人は、なお会社に対し労務契約に基づく権利を有するものである。したがつて、また会社が解雇を理由に申請人の就労を拒否する限り、申請人の就労不能は労務給付の債権者たる会社の責に帰すべき事由によるものというべきであるから、その債務者たる申請人は反対給付たる賃金の支払を受ける権利を失わない。