全 情 報

ID番号 04380
事件名 懲戒停職処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 動労四国地本事件
争点
事案概要  国鉄の動力者労組の地方本部および支部の役員がいわゆる順法闘争(安全運転闘争)を指令したとして懲戒停職処分に付された事例。
参照法条 公共企業体等労働関係法17条1項
日本国有鉄道法31条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1966年5月31日
裁判所名 高松地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 135 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働民例集17巻3号726頁
審級関係 控訴審/04160/高松高/昭45. 1.22/昭和41年(ネ)191号
評釈論文 吾妻光俊・ジュリスト373号356頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 原告らは、被告が原告らを一〇ケ月、八ケ月、三ケ月或は一ケ月の懲戒停職処分に処したことは明らかに過重な問責であり本件各懲戒停職処分は無効であると主張するのでこの点につき判断する。およそ懲戒権はその性質上企業秩序を維持し業務の正常な運営を確保するために客観的にみて必要最小限の範囲内にとどめらるべきことはいうまでもない。そして懲戒に値する行為があつた場合にこれに対していかなる制裁を課するかは秩序違反の程度のみならず秩序違反行為の動機、目的、態様のほか、当該職員の秩序違反行為への参加の仕方、地位、懲戒処分によつて該職員の受ける打撃等の情状に照応して合理的且つ客観的に妥当性をもつものでなければならず、右情状の判定や処分の量定等の判断権は使用者の全く自由な裁量に委ねられているものではない。そこで以下本件について右情状に相当する事実について検討するに、本件安全運転闘争の動機については、前示第二の二ないし四で認定の本件闘争に至る経緯等から窺われる如く乗務員、乗客及び一般公衆の生命、身体を列車事故から守るには安全運転以外に方法がないという切羽詰つた気持から本件安全運転闘争をなすに至つたものであること、本件安全運転闘争はその行なわれた時期の関係でいわゆる年末闘争の一環としての性格を兼ね備えていたことは否定できないが、他面にまた、昭和三六年当時四国支社管内の列車保安施設が著しく不備な状態にあつたので、これが改善を要求することにあつたこと(前示第二の二、第六1)、秩序違反行為の態様については、基準運転に反した運転方法を指令したとはいえ、安全運転を行なう要注踏切の選定は輸保第一〇一号を基礎とした四国支社における踏切設置基準に一応依拠し、原告らが全く恣意的に定めたものではないこと(前示第七の二)、組合指令に基づく運転方法であつたが、列車はあくまで列車指令の管理統括の下に運行されていたこと(前示第七の二)、列車密度や昭和三六年ごろの設備状況では多くの回復運転は期待できずまた遅延を回復することが好ましいとされる雰囲気の現場では無理な回復運転が行なわれ勝ちであること(前示第七の二)、証人A、同B、同C、同D、同E、同F、同Gの各証言と原告X1、同X2(第一回)各本人尋問の結果によると、予算上その他の都合で危険な踏切の整備が遅れていても、さような事情は列車ダイヤ編成の上で考慮されていないこと、したがつて日ごろ被告の定めた基準運転を行なう乗務員は危険な踏切で事故でも起れば運が悪いのだという不安とあきらめの気持をもつて運転していること、また危険防止のため列車が遅延しても決して喜ばれるような現場の実情ではなく、運転審査の指導面においても遅着は早着の二倍減点せられるなど正確迅速なことが取りも直さず安全につながるという考え方が強く支配していること及びもともと列車の安全な運転を行なうことは乗務員の生命であるところ、前記のような事情から特に本件安全運転当時においては乗務員である組合員において安全運転を要望していたものであることが認められる。このような現場の実態を勘案すると、原告らの指令指示が基準運転に違反するとしても輸送業務の最大の使命である安全という面からは、企業秩序違反行為の態様としてはさほど強く非難されるべきものではない。そのほか秩序違反の程度についても安全運転による直接の遅延時分は一列車につき最高一〇数分程度であつたこと(前示第四6、第五7)、本件闘争に対する被告の態度については、各現場長から口頭又は文書で中止の指示をなしたが、危険な現場の仕事に従事する者の先輩同僚として原告らの行動に対し幾分同情的な態度を以てのぞんでいたこと(第四2ないし5、第五2ないし6)、四国支社としても闘争時には予め総裁又は支社名で警告を広報に掲示し或は警告書を組合責任者に手交するのが通例であるにもかかわらず本件安全運転闘争に関しては闘争期間中の一二月六日附で発した警告書が同月七日午後に手交されており(第三10)通常の争議とは取扱いを異にしている。
 (中略)
 以下右の諸事情と各原告が本件安全運転闘争において果した役割を総合して考察するに、
 1 原告X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8については、右原告らは徳島、高知各支部の三役として地本指令第一四号、第一五号の実施を確認し、徳島気動車区、高知機関区各管内にある踏切の中から四国地本が設定した要注踏切の選定基準に該当するものを選定し、その他の事項については殆んど地本指令と同一内容のものを各支部指令として発出し、その実施を指示し、集約についても地本指令を待つて行なつたものであり、更に原告X3、同X6については、乗務員に本件安全運転闘争の実施を具体的に指示説明したが、もともと乗務員の本件闘争に対する関心が相当強かつたので、乗務員にそれ程強い影響力をもつ行動をなしたと認めるに足る証拠はない(前示第四、第五)。要するに本件安全運転闘争において右原告らが果した役割、立場は地本指令の当てはめないしは伝達行為ともいうべきでありそれ以上に出るものではない。ところで前記懲戒規程第七条によると、同規程第六条第一七号該当行為があつた場合にとりうる懲戒処分としては免職、停職、減給、戒告の四種類が定められているが、右範囲内においては懲戒権の行使は使用者の合理的な裁量にゆだねられているところ、右原告らの前記秩序違反行為と本件安全運転闘争に立ち至つた経緯殊に運転保安施設の改善に未だ被告の積極的態度がみられなかつた昭和三六年当時の事情その他前記認定の諸般の情状とを合わせ考えると、被告が前記各種懲戒処分のうち停職を選択して右原告らを各懲戒停職処分に付したことは懲戒権行使において合理的裁量の程度を著しく超え客観的妥当性を欠く処分として無効と解すべきである。