全 情 報

ID番号 04407
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 白石営林署事件
争点
事案概要  年次有給休暇権の法的性質につき、形成的効力をもつとされた事例。
 年次有給休暇の請求に対する使用者の承認は時季変更権を行使しないという意味をもつとされた事例。
 時季変更権の行使につき、事業の多忙の程度がいまだ事業の正常な運営が妨げられるとまではいえないとされた事例。
参照法条 労働基準法39条1項
労働基準法39条4項(旧3項)
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 時季変更権
裁判年月日 1965年2月22日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ワ) 627 
裁判結果 認容
出典 労働民例集16巻1号134頁/訟務月報11巻3号403頁
審級関係 上告審/01341/最高二小/昭48. 3. 2/昭和41年(オ)848号
評釈論文 花見忠・労働経済判例速報579号23頁/山本博・月刊労働問題86号108頁/正田彬・法学研究〔慶応大学〕38巻6号117頁/青木康・民事研修101号25頁
判決理由 〔年休-年休権の法的性質〕
 所謂年次有給休暇請求権の法律的性質については争いのあるところであるが、労働基準法三九条三項は、その本文において、使用者は有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない旨規定し、有給休暇日はまず労働者の意思によつて特定すべきものとし、ただ事業の正常な運営に重大な関心を有する使用者の利益をも考慮し、その但書において、事業の正常な運営を妨げる場合には他の時季にこれを与えることができるとして使用者に時季変更権を認め、その間の調整をはかつたものと解される。であるから、具体的な年次有給休暇日はまず労働者の請求によつて定まり、これに対し使用者において相当な時間内に時季変更権を行使しない限り、労働者から請求のあつた時季がそのまま年次有給休暇日となるものというべく、右時季変更権の行使と別個に使用者の承認の有無を問題にする必要はない。この意味で年次有給休暇の請求は形成的な効力をもつと解するのが相当である。少くとも、被告主張のように、それが請求権であることから、使用者の付与承認がない以上、たとえ承認しないことが事業の正常な運営を妨げるといつた正当な事由がない場合であつても、年次有給休暇日たりえないとする解釈は、年次有給休暇制度の適正な実現を害するおそれがあり、採用できない。
〔年休-時季変更権〕
 就業規則上若くは事実上年次有給休暇請求の手続において使用者の承認を要するとされていても、このことは、年次有給休暇請求権を前述のように解する妨げとはならない。蓋し、右の承認とは、使用者において時季変更権を行使しない旨を表明する行為であつて、それ以上のものではないと解されるからである。
 (中略)
 右事実を総合すると、当時の白石営林署特に原告所属の課は臨時の業務が重なりかなり多忙であつたと認められる。しかし時季変更権行使の要件としての事業の正常な運営を妨げる場合とは、単に多忙であるというだけではたらないと解すべきであるから、更にその程度が右時季変更権行使の要件に該当する程度であつたか否かについて検討するに、右にもみたとおり原告は仕事の上で補助的な地位にあり、問題の資料作成にしても終始一言もこれを命じられておらず、これら事実からすれば、原告が現地調査に同行した事実も、その結果原告の右仕事上の地位を非代替的ならしめるほどの意味をもつたものとは認め難く、又ともかく結果的には、原告が本件休暇をとつたことによつてさしたる支障も来さなかつたというべく、更に証人A、同Bの各証言及び原告本人尋問の結果によれば、白石営林署長は前記のように気仙沼の拠点闘争についてあらかじめ上局等から、説明を受け、且つ、各分会から気仙沼に応援に行くだろうからこれを阻止すべき旨指示され、署長から各課長に対し気仙沼に支援に行くときは休暇を許可しないよう指示がなされていたこと、前記A課長は原告から年次休暇の請求を受けて休暇中の行先を聞き、原告が気仙沼に行く旨答えたところ、言下に駄目だと答えたことを認めることができ、右事実によれば、白石営林署長が休暇を認めなかつた若くは、時季変更権を行使した主たる理由は、原告が気仙沼の闘争の応援に行くことを阻止するにあつたことが窺われ、以上の諸点を総合すると、時季変更権を行使しうる事業の正常な運営を妨げる場合であつたと断ずることはできず、他にこれを認めさせる証拠はない。従つて被告の右主張も採用できない。