全 情 報

ID番号 04505
事件名 賃金解雇予告手当等請求事件
いわゆる事件名 小林発条製作所事件
争点
事案概要  賃金の支払遅延についての労働者の不満に対し使用者が不満のある者は退職してもらいたい旨発言し、そのあと労働者が退職を願い出て使用者の承認を得て退職したとされていたところ、これは使用者による解雇である等として解雇予告手当が請求された事例。
参照法条 労働基準法20条
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告 / 合意解約と解雇予告
裁判年月日 1952年7月2日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (ワ) 928 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 労働民例集3巻3号286頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告-合意解約と解雇予告〕
 原告等外二十八名の者が、原告等主張のように、被告から一方的に解雇されたものであるか否かについて考えるに、証人A、同B、同C、の各証言並びに原告本人X1の供述によれば、被告会社においては、昭和二十五年五月以降事業不振のため従業員の賃金の支払が分割遅延したのみならず、支払額は一回二、三百円程度のことが続き、更に十月以降は、殆どその支払の予定も立たなかつたので、右X2、X3、X4、X1等が被告会社代表者にその支払の督促を繰返し、かかる際右代表者は、それらの従業員に対してやかましく催促されても財源がなくて支払ができないのであるから、不満なものは退職してもらいたいというような趣旨の発言をするに至つたことは認められるが、被告会社代表者の右の言辞をもつて直ちに原告等従業員に対する一方的解雇の意思表示と認めることは困難であり、また、成立に争のない甲第一号証の一乃至二十八(離職票)によれば、原告等の離職事由として、事業不振により経営困難なるがため、又賃金遅配のため、生活保障できず、解雇のやむなきに至つた旨が記載されているが、この記載は、退職した原告等従業員が、一日も早く失業保険金の給付を受け得るようにするために、被告会社の庶務係事務員によつて便宜的に記入されたものであつて、退職の事情をそのまま反映したものでないことが証人Aの証言並びに弁論の全趣旨によつて窺われるから未だこれを以て原告の主張を認めるに足らず、他に被告が原告等従業員を一方的に解雇したものと認めるに足る証拠はない。かえつて、前記各証人の証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、原告等従業員は、被告会社代表者の前記のような発言に接するに及び、九月以降仕事がないままに一月以上も経過し、剰さえ将来における事業の再建或いは給料支払の見透も殆ど得られない被告会社にこのうえ残留することを断念して、それぞれ別紙第二目録解雇日附欄記載のころ、被告に対して、退職を願出で、被告の承諾を得て、各雇傭契約を合意解除したことが窺える。このように被告が原告等外二十八名の者を一方的に解雇したことが認められない以上、被告は同人等に対して、解雇予告手当を支払うべき義務を負わないものといわざるを得ず従つて、原告等が被告に対して、解雇予告手当並びにそれと同額の附加金の支払を求める請求は、更に判断を進めるまでもなく、失当たるを免れない。