全 情 報

ID番号 04546
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 ヤマト交通事件
争点
事案概要  自動車運転手の不正行為およびその調査に対してとった態度を理由とする解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇手続 / 解雇理由の明示
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
裁判年月日 1960年3月24日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 3110 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集11巻2号184頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇手続-解雇理由の明示〕
 就業規則所定の解雇基準に該当することを理由とする予告解雇にあつても、解雇の際被解雇者に対し解雇理由を告知することが、解雇の要件であるとは解しがたいし、また、解雇の適否は、解雇の際明示された解雇理由のみを対象として判断しなければならないという根拠もない。したがつて、訴訟上解雇の適否が争いとなつたときには、使用者において、解雇の際生じていた解雇理由であれば、明示した以外の理由であつても、これを主張することは、何ら妨げないものというべきである。ただ、明示されない解雇理由は、通常、解雇当時使用者に認識がなく、後日の調査によつて判明したものと考えられるから、被解雇者の不当労働行為、権利濫用を理由とする解雇無効の主張に対し、十分な防禦方法としての価値をもたない場合が多いであろうと思われるだけである。
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 昭和三〇年一〇月六日大阪陸運局長から大阪旅客自動車組合理事長に対し、タクシー営業の事業者は、不当競争の防止並びに事業基礎の確立を期するため、定額運賃制度を厳格に遵守すべく、もし、その違反が確認された場合は厳重な行政処分を行う旨の通達が発せられ、また昭和三一年八月頃には、定額運賃違反料金の収受につき、従業員に対しても道路運送法上の罰則の適用があることにつき、法務省、運輸省並びに警察庁による行政解釈が確定し、同月一四日、大阪府知事からその旨の通達が同じく大阪旅客自動車組合長に発せられ、いずれもその頃、右組合長から被申請会社を含む各タクシー事業者に連絡されており、且つ、会社においては、これら行政的取締に対処し、その制定にかかる「運行安全の確保並びに乗務員服務規程」において、その二二条に「従業員は、当社が認可を受けている定額制運賃料金を固く守らねばならない。したがつて、タクシーメーター(ハイヤーを含む)は正しく操作し、その表示額どおりに運賃料金を収受しなければならない」と定め、さらに、従業員の採用にあたり、就業規則の遵守等のほか、とくに、水揚料金の不正収得をしない旨の誓約書を提出させる等、定額運賃制度の遵守と料金の不正収受防止のため万全を期することに努め、機会ある毎に、口頭または文書により従業員に対しメーターの不正操作を行なわないようしつよう(、、、、)なまでに注意をくりかえし、昭和三三年頃には、二回にわたり街頭調査員に会社営業自動車のメーターの不正操作を発見されて、大阪陸運局より、それぞれ約三日間ナンバープレイトを引き揚げられ、営業停止処分を受けたこともあることが認められ、他に右認定を動かすに足る疎明資料はない。右認定の事実に徴しても明かな如く、被申請会社にあつては、従業員が乗客と定額運賃違反の契約を結び、メーターの不正操作により料金の横領を行なうことは、従業員としての重大な義務違反であり、しかも、かかる不正行為は比較的発覚困難で、従業員にとつて誘惑的要素の強いことを勘案すれば、職場規律の維持に重大な悪影響を及ぼすものであることは、およそ疑いを容れないところであるといわねばならない。従つてまた、或る従業員につき、右の如き不正行為の疑いを抱かせる事情があつた場合、会社側がその真相調査の活動を行うに際して、これに対しことさら、反抗的、非協力的な態度をとることもまた、会社の業務を阻害し、職場規律をみだすものといわなければならない。このような観点から、前記申請人の行為を見るに、先に認定したとおり、乗客たるAとの間で定額運賃違反の契約を結び、九三〇円を着服横領したうえ、会社側がこれを察知して申請人の取り調べを行なつたのに対し、終始否認をくりかえし、何ら調査に協力しないばかりか、むしろ捨鉢的とさえいわれてもやむを得ないような反抗的言動をもつてのぞんだ点において、従業員として重大な義務違反であり、その結果、職場規律の維持に由々しい悪影響を与えるものであることは否むべくもなく、したがつて、これら一連の申請人の行為は、前記就業規則三五条三号の解雇理由に該当するものと断ぜをざる得ない。