全 情 報

ID番号 04548
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 横須賀キャブ株式会社事件
争点
事案概要  タクシー運転手の接客態度がはなはだ粗暴であったことを理由としてなされた懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1960年3月30日
裁判所名 横浜地横須賀支
裁判形式 判決
事件番号 昭和34年 (ヨ) 25 
裁判結果 認容
出典 労働民例集11巻2号266頁
審級関係
評釈論文 慶谷淑夫・ジュリスト235号79頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 申請人は昭和二十八年二月被申請人会社に雇われ以来本件問題の起つた時まで満六ケ年これといつた失態もなく証人A同Bの証言によればその職場における勤務成績も所属自動車運転手約百三十名中その中位にあることが疏明され又その家庭の実情は妻子五人いずれも申請人においてこれを扶養しているものであることは申請人の供述によりその成立を認められる疏甲第二号証により疏明されるところであり本件事態の発生当時は申請人は勤務終了後のことであり又証人C同Dの各証言及び申請人の供述によれば酒気を帯びていたことを疏明されるのである。申請人がE劇場に赴いたのは一にFに対する未収料金二十円を請求するためであつて他意があつてのことではなく応待したCと対談中Fが右劇場内にいるにもかかわらずCが同女はいないと嘘をいつているものと誤解し加えてCの態度から同人が申請人より強談でも受けているかのような様子を見せたものと受取つて憤慨し酒気も手伝つて本件のような一連の行為に発展して行つたものであることはその経過と申請人の供述によりこれを窺い知ることができるのであつてその行為たるや前段判断のとおり非難に値いするものではあるがいわば偶発的のものであり被申請人会社の信用を墜すことの意図をもつて敢行されたものと異りその情において酌むべき点もないではなく又Dが奮然として被申請人会社社長に談ずるとて申請人と別れた直後申請人は同僚数名に対し「クビになつたら社長の禿げ頭をぶん殴つてやる」旨口走つたことがあつて不謹慎のそしりを免れないこと勿論であるが事態の発展による興奮の結果の放言であつてかかる放言をとつて申請人に反省の色がないものとするのはいささか早計の嫌いあり申請人の供述によつてもその後反省の情があることを認め得られるものである。
 以上諸般の情状を考慮するとき申請人に対し就業規則所定の懲戒処分中最高段階の処分である解雇をもつて臨んだことは重きに過ぎるというべきであり従つて右懲戒解雇処分は被申請人会社所定の就業規則の解釈適用を誤つた違法があるものという外はない。してみると本件懲戒解雇の意思表示を無効とする申請人のその余の主張について判断するまでもなく被申請人会社の申請人に対してなした懲戒解雇の意思表示は無効であるということができる。