全 情 報

ID番号 04590
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 協力電機事件
争点
事案概要  会社の他の従業員が飲酒のうえ会社の自動車を無断運転していて起した衝突事故につき、同じく飲酒して同乗していた上司が監督上の責任ありとして懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務外非行
裁判年月日 1962年5月11日
裁判所名 静岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ヨ) 3 
裁判結果 認容
出典 労働民例集13巻3号584頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
 前記事故の結果、会社が損害を被つたことは上述したところであるが、以上認定のとおり申請人に刑法第二一一条の罪の共犯の成立が認めがたい以上、他にとくべつの事情の認められない本件においては、前記事故による事故車の損害を申請人の故意又は過失によるものとみるのも困難であるというべきである。
 以上のとおりであるから、申請人の前記行為は、被申請人主張の就業規則第六四条第七号、第六五条第一〇号のいずれにも該当しないといわなければならない。
 のみならず、かりに右各号に該当するとしても、これら該当行為のすべてについて解雇の許されないことは、当該行為の情状により戒告、譴責、減給、出勤停止、資格降等、辞職勧告または懲戒解雇の各種の処分を定めている就業規則第六四条、第六五条によつて明らかであり、懲戒解雇はその情状がとくに重く客観的に雇傭関係を継続することが困難視されるときに限られるものと解さなければならない。ところで以下に述べる諸点を考慮すると、申請人に対し懲戒解雇の理由があると認めるのは、被申請人主張の就業規則の規定の客観的、妥当な解釈適用を誤つたものとして無効であるというべきである。
 すなわち、
 (1) 前記事故による損害は、純然たる財産的損害なのであるから、その補てん、弁償の有無、程度及びこれについての誠意が、情状として大きく考慮されるべきものと考えられるところ、前掲A、B各証言、申請人本人及び被申請人代表者各尋問の結果を合わせると、会社は、前記事故発生後、同月二二日以降再三、申請人の処分について役員会を開いたり、申請人に辞職勧告をしたりしたのみならず、同月三一日にはC社長及びA管理部長がわざわざ御殿場市の申請人の両親の許まで申請人の退職について了解を求めに行つているのに、その間申請人ないしその両親に対し、前記損害の補てん、弁償についてはなんらの話し合いもしておらず、会社の役員会においては、申請人の前記損害の補てん、弁償の意思の有無を全く問題にしないで解雇することを決定したことが認められること。
 (2) 前掲A証言、証人Dの証言及び被申請人代表者尋問の結果によると、申請人のみは解雇という極刑にあたる処分をうけながら、直接の運転者であるEはいまだになんらの処分もうけておらず、また、前述のとおり事故当夜事故車に同乗したD事長は減俸五〇〇円の処分に過ぎず、同じF汎用係長にいたつてはなんらの処分もうけていないことが認められること(会社は、Eの処分については、現在同人が入院中なので精神的影響を考慮し、退院後処分を決することになつているというが、役員会の内部においてすら同人に対する処分が全然問題になつていないことは右A証言及び尋問の結果によつて明らかである)。
 (3) その当時、会社はその営業の性質上、車の数が多いのにガレージが少なく、多くの従業員は自分が会社で使用している車をそのまま自宅に乗つて帰り保管していた事実は被申請人の明らかに争わないところであるから自白したものとみなし、静岡営業所についていえば、六台ある車のうち、五台までそうしており、ガレージのあるのは一台のみであつたことは当事者間に争いがなく、以上の事実に前掲D証言、証人G、Hの各証言及び申請人本人尋問の結果を合わせると、会社の車は、従業員の勤務時間外の無断使用をきわめて誘発し易い管理状況にあり、右使用の実例も少なくないことが認められること。
 (4) 前記Hの事故のばあいは、会社主張のように、被害者にも過失があり、かつ会社になんら損害が及んでいないとしても、成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証、第一四号証に前掲H証言の一部を合わせれば、勤務時間外に飲酒めいてい(、、、、)し、被害者に重傷を負わせた事実は明らかであるから、就業規則第六五条第一〇号に該当し、申請人が事故車の同乗者であつたのとは異なり、直接の運転者としてその罪責は軽くないと考えられるのに、その処分は前述のとおりであること。
 以上(1)ないし(4)の事実を合わせ考えると、申請人に対する処分は、被申請人代表者尋問の結果によつて認められる、それまでに会社の車を無断使用し、飲酒めいてい(、、、、)の上事故を起こした事例(二件)では、いずれも解雇しているとの事実を考慮にいれても、被申請人主張の就業規則の規定の客観的、妥当な解釈適用を誤つたものとして無効であるといわざるを得ない。
 三、以上のとおりで、申請人に会社主張の懲戒解雇の事由に該当する行為があつたとは認められないから、これを理由とする本件解雇はその余の判断に及ぶまでもなく無効であり、したがつて、申請人は依然として会社従業員たる地位を保有するものといわなければならない。