全 情 報

ID番号 04592
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 大平機械設備事件
争点
事案概要  使用者所有にかかる自動三輪車の無免許運転、無届欠勤等を理由として懲戒解雇された者が、本当は組合活動を理由とする不当労働行為としての解雇であるとして争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1962年5月28日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ヨ) 801 
裁判結果 一部認容・却下
出典 労働民例集13巻3号668頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 右第八三条の規定によれば懲罰には譴責、減給、出勤停止、懲戒解雇の四種類があり、右は第八四条の規定によれば第一三条違反の程度に応じてなさるべきものである。言うまでもなく懲戒解雇は懲罰として最も重いものであるからこれに該当するためには第一三条違反においても最も情状の重い事由のあることを要する。本件においては懲戒解雇処分に付したのではないが、懲戒解雇事由が存在するとして第二二条による解雇をなしたのであるから懲戒解雇に該当する事由、即ち第一三条違反にして最も情状の重い事由が存在しなければならない。したがつて本件解雇が正当とされるためには具体的解雇事由として挙示された申請人らの各行為が懲戒解雇基準としての就業規則第一三条及び解雇基準としての同第二四条の該当各号に違反するものでなければならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 解雇事由の(1)(2)について、申請人X1が昭和三五年一二月一三日被申請会社南工場宿直勤務中に被申請人所有の小型自動三輪車を無免許運転して南工場近辺のA株式会社工業薬品名古屋蔵置所のコンクリート塀に激突させ右自動車を毀損したこと、昭和三六年四月二五日江南市B株式会社へ出張中同工場内において被申請人所有のトラツクを無免許運転し且つその際キー・ホールダーを破損したことは当事者間に争がないが、成立に争のない乙第二号証の記載、証人Cの証言及び申請人X1本人尋問の結果によつて疏明されるところによれば、昭和三五年一二月一三日の事故については申請人X1は遺憾の意を表明して翌一四日弁償を申し出ており、被申請人の方で弁償を問題としなかつたため結局弁償する迄に至らなかつたが同月一八日就業規則第八三条により再度このような事故を起さないよう注意する旨記載した始末書を提出して譴責処分を受けているし、また昭和三六年四月二五日の事故については右始末書を提出したのに再び無免許運転に及んでいることは軽視できないとしても、実害はキー・ホールダーの毀損のみで価格も二、三百円に過ぎないのであるから、再度の事故であるとはいえ未だ懲戒解雇事由としての就業規則第一三条第一号乃至第三号違反に該当するものではない。
 〔中略〕
 解雇事由の(9)について、申請人X2が昭和三六年七月九日夜D寮に帰らず無断外泊したことは当事者間に争がない。右行為は就業規則第一三条第二号に該当し、しかも証人Cの証言及び右証言によつて成立の認められる乙第一〇号証の記載によれば申請人X2は寮を無断外泊したことが四、五回あり、或は門限後帰寮したことがあるが、右の如き以前の行為を合わせ考えても右違反行為をもつて懲戒解雇事由にあたるものということはできない。
 以上述べた如く被申請人のいう解雇事由はいずれも理由がないのみならず、各行為を綜合して考えてみても特に申請人両名を解雇しなければ職場秩序維持の障害となる程のものとはいえない。かえつて前記の如く解雇がなされた前々日である昭和三六年七月一三日申請人両名を含む七名の者が被申請人に対し賃上等の要求書を提出し、その際申請人両名が特に積極的に行動した事実があることを想起すれば、本件解雇は右の如き解雇事由として挙示されたところが決定的に作用したというのではなく、被申請人が申請人らの待遇改善要求を嫌悪しその中心人物としての申請人両名を排除しようとしてなされたものと推察される。したがつて本件解雇の意思表示は権利の濫用として無効とすべきものである。