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ID番号 04615
事件名 賃金支払請求控訴事件
いわゆる事件名 駐留軍労務者事件
争点
事案概要  日米両国政府間において締結された労務基本契約により駐留軍労務者の給与額の最高を決めたとしても、従前からの労務者の賃金にはなんらの影響を与えるものではないが、本件においては労務者らが減額を承諾していたとされた事例。
参照法条 日米基本労務契約3条
体系項目 賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1963年2月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和35年 (ネ) 2162 
裁判結果 取消・棄却
出典 労働民例集14巻1号369頁/訟務月報9巻3号345頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金・退職年金と争訟〕
〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 いわゆる駐留軍労務者は、日本国政府に雇用され、米国軍隊に対して直接労務を提供するものであつて、その雇用関係は日本国政府との間に成立し、日本国政府は雇用主としての一切の責任を負うが、その勤務関係は駐留米軍との間に成立し、労務者は軍の指揮監督のもとにこれに労務を提供する(旧労務基本契約((昭和二六年七月一日から発効))第七条、第一〇条、なお、新労務基本契約((昭和三二年一〇月一日から発効)第七条参照)という特異な労働関係(間接雇用形式)を形成するのである。しかして、駐留軍労務者は、平和条約の発効に伴い制定された昭和二七年法律第一七四号により国家公務員に非ずして政府から給与を受ける特殊の地位を有するに至つたのであるが、少くとも右給与の増減に関する限り、政府と駐留軍労務者との関係は私企業における雇主と労務者との関係と何ら異るところはないものと解すべきである。
 従つて、新労務基本契約(第四条、細目書2A節第三項)が旧労務基本契約の下において前記被控訴人らの給与額の基礎となつていた調達庁長官の特認制度を廃し、「この契約に別段の定がある場合を除き、細目書2附表1の該当基準表のそれぞれの職種について定めた最高額をこえて基本給を支給してはならないものとする。」と規定するに至つたとしても、右労務基本契約は新旧何れも日米両国政府間で締結され、当事者たる両国政府を拘束するにすぎないのであるから、それが当然に日本国政府と被控訴人らとの間において定められていた被控訴人らの労働条件たる特認給与額に影響を及ぼし、これを新労務基本契約細目書2附表1に定める最高賃金額迄減額変更する効果を有するとするいわれはない。右に反する控訴人の主張は、控訴人独自の見解であつて採用することができない。
 第二、被控訴人X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12、同X13、同X14の各請求について。
 右被控訴人X1外一三名の昭和三二年一〇月分迄の給与額が同被控訴人らの主張の如くであつたことは、前項と同一の理由によつて認めることができる。控訴人は、前記被控訴人らは昭和三二年一一月分以降の給与額が新労務基本契約に定める給与額に減額されることを承諾した、と主張するので、この点について判断する。
 成立に争のない乙第一九号証の一、二、及び当審証人Aの証言によると、控訴人は、青森県三沢渉外労務管理事務所長Aを通じて青森県三沢基地勤務の消防士に対し昭和三二年一二月五日付で、新労務基本契約の発効した昭和三二年一〇月一日以降は従来支給してきた特認給与額の支払は認めないこと、及び既に支払済の同年一〇月分の特認給与額を回収する旨通知したところ、前記被控訴人X1外一三名は、同年一二月一一日付の嘆願書と題する書面を以て三沢渉外労務管理事務所長Aに対し、同年一一月以降の特認給与支払停止については了承するが、既に支払済の同年一〇月分の特認給与額の返納は生活上困難があるので取止めて貰いたい旨回答し、以て同年一一月分以降の賃金については、新労務基本契約に定める給与額に減額されることを承諾したことが認められる。右認定に反する当審における被控訴人Y本人尋問の結果は信用できず、他に右認定を左右すべき証拠はない。従つて、日本国政府と前記被控訴人らとの間で定められていた労働条件の内容をなす右被控訴人らの賃金は、昭和三二年一一月分以降、新労務基本契約細目書2附表1に定める最高賃金額迄合意により減額変更されたものというべきであるから、右被控訴人らが控訴人に対し、夫々昭和三二年一一月から昭和三三年三月分まで従前の特認給与額と右新労務基本契約所定の賃金額との差額を請求する本訴各請求は理由がないものといわねばならない。