全 情 報

ID番号 04664
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三井化学工業事件
争点
事案概要  オートメーション化された工場におけるピケ隊員の計器室への侵入その他の業務妨害行為が違法な争議行為にあたり、右ピケ隊員を卒先指揮したとして組合の執行委員が懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法8条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
裁判年月日 1957年7月20日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ヨ) 248 
裁判結果 却下
出典 労働民例集8巻4号439頁/時報125号19頁/労経速報257号2頁
審級関係
評釈論文 季刊労働法26号51頁/法学研究〔慶応大学〕35巻1号105頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 申請人の前記一連の行為はそれが組合の決定により派遣されたピケ隊に随行し、その集団的行動たるピケ行為の一環として行われたものであるにせよ、右ピケ隊の行動たるや通常ピケッティングの範囲として容認さるべき言論による説得、団結の示威等による入門阻止又は就労阻止等の限度をはるかに逸脱したものである。即ち工業所のA工場は高圧ガス取締法の規制を受ける危険施設としてみだりに作業者以外の者は立入りできない工場であり、又最新式のオートメーション工場であつてその計器室には各種計器が集中され、一定の標準作業が全くこれらの計器によつてのみ操作されているという状況であるから、部外者が多数その内部に侵入して喧騒する如きは厳にこれを避くべきものであるに拘らず、会社が非組合員により操業中のかかる工場内に多数人員で無断侵入の上、右の如き枢要の場所たる計器室において作業中の非組合員更には保安作業を継続せんとする会社の作業責任者等に対し、多数の圧力を以て保安作業の停止を要求して喧騒を極め、非組合員等の固有の業務を妨害すると共に、会社がスト中と雖も作業を休止すべき義務がないのに拘らずその意に反して作業停止のやむなきに至らしめ、その操業の自由を侵害したものであるから、その目的、手段の双方において違法な争議行為であるといわざるを得ないところ、申請人は右ピケ隊の中でもその言動は特に著しいものがあり、いわゆる卒先実行者とみなさるべきものである上に、自ら執行委員として組織部副部長の地位にあり、常任闘争委員として本件闘争更には本件ピケ行為の企画に参与したものと推定されるので、かかる違法な争議行為に対する責任を問わるべきことは当然であつて、叙上認定の申請人の行為は他の従業者たるB係長に対しA工場の保安作業の継続を断念するのやむなきに至らしめてその業務を妨げたものと認むべきであり、前記第八十六条第十号後段の懲戒事由に該当するというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 就業規則に規定する懲戒解雇事由に該当する行為があつた場合、当該行為者を懲戒解雇にするかどうかは会社の自由裁量に属する事柄であつて、会社は自己に与えられた裁量権に基き諸般の事情を総合して決定し得るものといわねばならない。只、その判断が著しく客観的妥当性を欠き軽微の事犯を捉えて為された場合はじめて懲戒解雇権の濫用というべきところ申請人の前記認定の(一)及び(二)の所為は会社の重要工場たるA工場の作業停止並びに之に基くC工業電解槽の一部損傷を招来したものでありその違法行為は重大であつて軽微であるとは到底いうことはできず、懲戒解雇が当該労務者を企業より放逐してその者に物心両面に亘り重大な不利益を与える処分とはいえ申請人に対する本件懲戒解雇を以て未だ懲戒解雇権の濫用とはいえない。
 尚申請人は叙上(一)(二)の事由は全く組合の意思決定に基く組合活動として為されたもので、申請人個人には責任なく、仮にあつたとしてもかかる行為に対し個人責任を追及することは懲戒解雇権の濫用である趣旨の主張をするが、組合の決定に基く組合活動といつてもそれが違法な争議行為であるときは組合自身の責任(例えば損害賠償責任)を生ずることのあるは勿論、当該違法行為者自身においても個人責任を負うべきものといわねばならない。けだし組合の決定に基き組合のためにする行為であるからといつてこの行為に基く結果の責任をすべて組合に転嫁することを認めるにおいては、行為が行為者の判断、意欲、決意に基く価値行為たる本質をないがしろにし近代法の基本観念に背馳するそしりを免がれないばかりでなく、組合の名のもとに違法行為を敢てする組合員の違法行為を阻止し得ない事態を招来するからである。組合のためにする行為又は組合の決定に基く行為はその違法なるものといえども尚組合活動というべきであるが、違法組合活動をなした者はその行為によつて生ずることのある組合の責任とは別個に違法行為者としての個人責任を免がれえないものであり、只、末端の組合員はその違法行為責任の程度の評価において差異を生じ或は期待可能性の有無の問題を生ずるにすぎないものと解する。