全 情 報

ID番号 04668
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 東京コンクリート事件
争点
事案概要  生コン会社に雇われて間もないトラック運転手が余剰員となったとして解雇されその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法21条但書4号
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
裁判年月日 1957年9月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和31年 (ヨ) 4081 
裁判結果 却下
出典 労働民例集8巻5号688頁/時報132号24頁/労経速報258号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 会社における試用に関する規制を見ると、就業規則によれば、
 第七条 前記の手続(採用希望者の履歴書等の提出手続)を行つた希望者に対しては、その性行、技能、学識、経験、健康等を審査、選考し、六〇日以内の試用期間を設けて採用する。採用された者は試用の日より従業員としての身分を認められる。
 第三〇条 左の各号の一に該当する場合は三〇日前に予告するか、又は平均賃金の三〇日分以上を支給して即日解雇する。但し第七条に定める試用期間中の者で採用した日から一四日を経過しない者についてはこれを適用しない。
 一 勤務成績不良にして改善の見込なしと認めたるとき
 二 精神又は身体の故障のため就業にたえないと認めたとき
 三 誠実義務に違反すると認められるとき
 四 正当な理由なくして無断欠勤したるとき
 五 遅刻早退常ならざるとき
 六 直接又は間接に社業をみだし又はその虞ある者で従業員として適格を欠くと認めたとき
 七 会社の経営方針に背反する行為をした者
 八 老衰のため業務能率が著しく低下したと認められるに至つたとき
 九 傷病以外の事由により引続き一ケ月の欠勤に及んだとき
 一〇 本規則およびこれに基いて作成せられる諸規則に違反した者で解雇することが適当と認められたとき
 一一 その他前各号に準ずる程度の事由又は事業経営上やむを得ない都合があるとき
 と定められているだけであつて、給与は試用期間中は日給四〇円、期間経過後日給は三〇〇円となるが、取扱つた生コンクリート一立方米あて二五円の能率給が与えられることとなつているものと認められる。
 なお、就業規則第三〇条本文但書は、試用期間中の者で採用した日から一四日以上経過した者についても同条各号の事由がなければ解雇できない趣旨のように文言上は読めるけれども、(イ)この趣旨に読めば一四日以上の試用期間を認めることは無意味となるし、(ロ)また支部がこれまでこの条文を文字どおり解釈すべきだとの主張をして来たことの疎明もないので、前記但書の趣旨は、労働基準法上試の使用期間中の者が採用後一四日を超えない中に解雇される場合は、同法第二〇条の適用がないこととなつているので、この趣旨のみを明らかにするため、かかる場合に該当する従業員の解雇には三〇日前の予告や予告手当の支給を必要としないことを表現したに過ぎないと解され、結局試用期間中の従業員には就業規則第三〇条の定める解雇事由の制限はないものと解せられる。
 前記就業規則によれば、試用者は従業員として六〇日以内の試用期間をもつて採用されるものであり、本採用の従業員という文言がなく、単に試用期間経過後は就業規則第三〇条所定の事由がなければ解雇されないことと定められているのであるから、試用の名をもつて始まる労働契約は当初より期間の定めのない雇用契約に外ならず、ただ当初の試用期間中は就業規則上の制約なしに解雇できるよう解雇権が留保されている期間であつて、その解雇がなされないで試用期間を経過するときは解雇につき就業規則の適用される一般の雇用契約と異なるところのないものと認めるのが相当である。
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 申請人は、この点について、増車の計画もあることであり、また自然退職も予想されるのであるから、一名ぐらいのことは、右条項にいう「事業経営上やむを得ない都合があるとき」に該当しないと主張するが増車計画によつて運転者の増員を必要とする事情の疎明はないし、また疎明によれば従来会社においては殆んど自然退職者のなかつたことが認められる。なる程一般論としては一名位の余剰員を抱えても経営に格別の影響があるとは考えられないであろう。しかしながら右にいうやむを得ない都合というのは、会社がその都合の存在を認めることが社会通念に照して甚しく不当でない場合をいうものと解すべきであるので、同条の運営としてなした行為が職場の慣行に反するとか、同条の解釈につき別に組合との諒解があるなど特段の事情があれば格別であるが、かかる事情の主張、立証のない本件においては、前記認定のような諸事情に基き、会社が一人でも剰員である以上、これを解雇することは事業経営上やむを得ない都合がある場合と認めても社会通念に照して甚しく不当というに足りない。
 そして、会社が余剰員として、運転経験も入社後の経歴も浅く昭和三一年五月八日会社深川工場において自己の運転上の不注意により、その操縦する車を他社の車に衝突させ、修理に約六〇〇〇円の損傷を与える事故をおこした外、後記の事故をおこしたように短期間に二度も事故をおこし、なお後記のように再度にわたり事故報告書の提出を求められても報告書を提出しなかつたように勤務成績も良好とはいえない申請人を選択したことが不合理であるとはいえない。
 二、次に会社は申請人に対する解雇理由として会社では車輛損傷の事故があつた場合は、運転手は、会社備付の事故報告書に事情を記入して提出することとなつているのにかかわらず、申請人は昭和三一年七月汐留駅構内においてその操縦する車のフエンダーをへこませ、他社で修理するとすれば二、三千円を要する損傷を与え、これに対し会社側より二回にわたつて事故報告書を提出するよう注意されたのに遂にその報告書を提出しなかつたと主張し、右事実は疎明によつて認められる。
 そしてこのように、会社から再度事故報告書を提出するよう求められても提出しなかつた従業員はこれまでなかつたことが認められ、且つ入社後間もない従業員の行動であることを考え合せると、かかる申請人の行動は、前記就業規則第三〇条第六号にいう「直接または間接に社業をみだし、またはその虞あるもので、従業員として適格を欠く」場合に該当すると認められてもやむを得ないという外はない。