全 情 報

ID番号 04687
事件名 雇用関係存続確認請求事件
いわゆる事件名 全電通千代田丸事件
争点
事案概要  電々公社布設乗務員が李ライン内の日韓間海底線の障害修理工事のために出航する船の出航を拒否したことにつきその出航拒否指令が公労法一七条に禁止された争議行為の指令に当たるとして組合役員が公労法一八条に基づき解雇された事例。
参照法条 公共企業体等労働関係法17条
公共企業体等労働関係法18条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1959年4月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ワ) 7996 
裁判結果 認容
出典 労働民例集10巻2号377頁/タイムズ89号60頁/裁判所時報278号2頁/訟務月報5巻12号1643頁
審級関係
評釈論文 慶谷淑夫・ジュリスト188号72頁/法学研究〔慶応大学〕32巻8号87頁/労働判例百選〔ジュリスト252号の2〕24頁
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕
 本件工事に赴くことがA船乗組員の労働契約上給付すべき労務の内容となつているかどうかは、おおむね、(イ)労働協約、就業規則などの定めはどうなつているか、(ロ)従前の日常的な勤務と本件工事における勤務とではその勤務の内容ないし勤務の環境にどのような相違があるか、(ハ)従前本件工事と同種の工事につくに際してその労働条件、航海の安全保障の条件の決定がどのような方法によつて決定されたか、その実績の程度、またその決定された労働条件の内容がどのような内容であつたか、(ニ)社会通念上当該勤務につくことが契約当事者間に合意されたと認めることが合理的であるかどうかの諸点を検討することによつて決定されるべきものと考える。
 〔中略〕
 以上の諸事情を総合して見ると、A船乗組員の労働契約の内容を就業規則などにより明確にできないし、被告の旅費規程なども被告自身朝鮮海域における労働を律するのに必しも適当でないと考えていたと認められるので、結局従前の労働条件の実績によつてその内容を確定する外なく、従前の労働条件の実績によれば、朝鮮海峡における海底線工事はA船乗組員の通常の労働の環境とは異つた危険な環境において行われ、そのため出航前例外なく労使の団体交渉が行われ、結果的には妥結して出航したこと、その労働条件も工事個所の危険の度合いに応じて異り、労働の対価も予め抽象的に定められた規定によるものではなく、結局は海底線施設事務所長の超過勤務に関する裁量権の行使という形により定められた(壮行会費の規定上の根拠は本件記録上は明白でない。)ということになる。
 そしてこのような取扱いが昭和二四年一二月以来七年(朝鮮動乱の休戦協定成立後とするも三年)に近い年月にわたつて行われたことを考えると、反対に解すべき特段の事情のない本件においては、A船乗組員の朝鮮海峡における労働は、その都度労使の団体交渉により妥結する条件をもつて、その労働条件とする約旨であつたと認定するのが相当である。
 ところで本件工事に関しては労使の団体交渉の妥結を見ないで出航命令が出たことは当時者間争ないところであるから、かかる命令は従前からの労使間の団体交渉における妥結を積みかさねることによつて前記のとおりの内容に限定されたA船乗組員の労働契約の内容の変更を試みたものというべきである。
 そしてこのような契約内容の変更が可能であるかどうかは結局は労働者の同意の有無に求めざるを得ないところである。
 本件工事は、被告やA船乗組員がいかに注意しても、なお生命身体に対する危険が絶無とはいえない海域における工事なのであるから、A船乗組員は自己の満足する労働条件ならば格別、それ以外の条件ではそんな危険にさらしてまで自己の労働力を売つていないと見るのが社会通念上むしろ通常であるので、結局本件に現われた全証拠によつてもA船乗組員が右変更に同意したと認めることはできないし、また被告との雇用契約締結によつて被告側からする前記労働条件の変更についてまで包括的に同意していたと認めることができないところである。
 〔中略〕
 以上によれば昭和三一年三月五日A船船長のスタンバイ手配当時A船乗組員の本件工事に関する労働条件は未定であつたというべきであり、そして労働条件未定のまま前記の危険のある海域に出航する義務がA船乗組員にあつたとはたやすく考えられないところである。
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 以上のとおり、A船乗組員が昭和三一年三月五日同船長の出航の命令に応ずべき労働契約上の義務があつたとの点について立証がないから、A船乗組員が右命令に従わなかつたとしても、かかる行為は公労法第一七条に禁止されている行為には該当しないものというべきである。
 従つてかかる行為を指令した本社支部の闘争連絡第六号、第八号もまた公労法第一七条によつて禁止された行為をあおり、そそのかす行為には該当しないという外はない。
 被告の職員は前記のとおり法律上その地位が保障されているのであるから、公労法第一七条に違反しないのにかかわらず、同条によつて解雇してもかかる解雇は無効というべきである。