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ID番号 04696
事件名 遺族補償金請求事件
いわゆる事件名 貨物自動車上乗人夫事件
争点
事案概要  貨物自動車の上乗に従事中の人夫がそこから転落死亡した事故につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法78条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務中、業務の概念
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限
裁判年月日 1959年9月14日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ワ) 203 
裁判結果 認容
出典 労働民例集10巻6号1185頁
審級関係
評釈論文 加藤俊平・ジュリスト218号79頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務中、業務の概念〕
 訴外亡Aは被告に雇われて貨物自動車に上乗して、土砂の積載や荷下し等の業務に従事していたものであり、本件事故発生当時頃は被告は三台の貨物自動車を使用して函館市所在のB株式会社構内より同市(略)のC中学校々庭へカーバイトかすその他の土砂等を運搬する仕事を行つており、訴外亡Aも貨物自動車に上乗して右作業に従事していたものであるが、たまたま本件事故発生当日たる昭和三〇年九月二二日は運転手の訴外Dが仕事を休んだので訴外亡Aは午前八時頃B株式会社構内の現場へ出勤したが上乗の仕事がなく、当時現場の責任者であつた訴外Eの指図で貨物自動車に土砂等を積載するための段取りや積載等に従事し、当日は風邪気味とかで多少健康にすぐれない状態のようではあつたけれども午後三時頃までとも角も右作業に従事し、当日の最後の貨物自動車にカーバイトかす等を積載して、右訴外E及び訴外Fは助手台に乗り、訴外Gと訴外亡Aは荷物台のカーバイトかすの上に乗つて右現場を引揚げ、荷下し現場であるC中学校に赴くべく同所を出発したこと、当時、B株式会社構内の荷積み現場で土砂等を積載したり、その段取り等に従事している作業員は右構内への出入は自由に出来なかつたため最終の貨物自動車に乗つて同現場を引揚げ、荷下し現場であるC中学校々庭で荷下しを手伝つたりして一日の作業を終るのが例であつたこと、右の如く貨物自動車に乗つてB株式会社構内の現場を出発した訴外亡Aは、途中自宅附近で一旦停車して貰つて弁当箱を置き、更に荷台の上に乗つてC中学校々庭の荷下し現場へ向つたが同日午後四時二〇分頃該自動車が目的地であるC中学校校庭前附近の道路上にさしかかつた際、突如該貨物自動車より過つて転落、頭部を強打して頻死の重傷を受け、直ちに函館市(略)H病院に運ばれたが午後五時頃同病院で死亡するに至つたものであること、以上のような事実が認められるのであつて、右認定の事実によれば訴外Aの死亡は労働基準法七九条にいわゆる業務上の死亡に該るものと認めるのが相当である。右認定に反する証人Fの証言、被告本人Yの供述は前顕各証拠に対比しこれを措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。被告は、訴外Aは当日は非番であつて作業に従事していたものではなく、過つて現場へ出て来たが非番であつたので帰宅するため本件自動車に便乗していたものであるから同人の死亡は業務に従事中の死亡ではない旨主張し、証人Fの証言、被告本人Yの供述は一応右主張に副うものであるけれども、右各証拠がにわかに措信し難いことは前に判断したとおりであつて、他に右主張事実を肯認するに足る証拠はなく、却つてその然らざることは前記認定のとおりである。従つて被告の右主張は採用しない。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限〕
 被告は、訴外Aの死亡は自身の過失によるものであるから被告には遺族補償の義務はない旨主張し、訴外亡Aに過失のあつたことは前に認定のとおりであるけれども、労働基準法による遺族補償は業務上死亡した労働者の収入に依拠していた遺族の生活を保護した規定と解せられ、労働基準法七八条が休業補償及び障害補償について労働者に重大なる過失がある場合についての例外を規定しているのに反し、同法七九条の遺族補償については何らかかる規定のないことに照らしても、労働者の死亡が自らの過失に基因するものであつても、業務上の死亡である限り、使用者には遺族補償をなすべき義務あるもので、死亡労働者の過失の有無はそれだけでは何ら右義務の存否にかかわりはないものと解するのが相当である。従つて訴外時枝の死亡が同人の過失に基くものであつたとしても、これによつて被告の遺族補償義務に何らの消長を来すものではないから被告の右主張は理由がない。