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ID番号 04718
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 福岡修猷館高校事件
争点
事案概要  県立高校ラクビー部員が社会人チームとの練習試合で受傷した事故につき、クラブ顧問教員、県の安全配慮義務違反が問われた事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1989年2月27日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ネ) 657 
裁判結果 一部変更棄却(上告)
出典 高裁民集42巻1号36頁/時報1320号104頁/タイムズ707号225頁
審級関係 一審/福岡地/昭62.10.23/昭和58年(ワ)2058号
評釈論文 塩崎勤・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕68~69頁1990年10月/新美育文・私法判例リマークス〔1〕<1990>〔法律時報別冊〕57~60頁1990年7月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 以上の学校設置者と生徒との法律関係からすれば、高等学校教育において、学校設置者が在学中の生徒に対して負う安全義務とは、実際の教育現場において、その教育活動の種類による危険度と生徒の技能、体力を照らし合わせ、当該具体的教育活動の状況下において生徒の生命、身体、健康に危険が生じないよう万全を期すべきことである。生徒に対する関係でこの安全配慮義務を遂行できるのは、生徒と接触している校長を頂点とする教頭、教諭及び事務職員、その他の職員(学校教育法五〇条)の全体であり、したがって、学校設置者の安全配慮義務の履行補助者も校長を頂点とする職員全体であると解するのが相当である。控訴人は、学校教育法その他関係法律の規定の定めるところに従い、生徒の生命、身体、健康に危険が生じないように物的、人的環境の設置、整備、すなわち物的施設の整備、管理、十分な指導能力をもつ教諭の担当業務の決定、教育計画の樹立、学校行事の立案、実施等をすべき義務を負うものであるが、同時に安全配慮義務はそれをもって足り、したがって、校長のみが履行補助者であり、教諭は履行補助者に含まれない旨主張するが、この考えはとりえない。その理由は以下のとおりである。
 (1) 学校教育の遂行過程では、本質的に危険が内包されている場合があり、いつそれが顕在化するかもしれないのに、未だ危険を防止し、あるいは回避するに十分な能力を備えていない未成年者であっても、生徒は両親等保護者の保護のもとを離れて学校設置者の完全な支配下におかれ、保護者は生徒の生命、身体、健康を危険から保護する手段を具体的に行使することが出来ず、これを学校設置者に全面的に委ねざるをえないのであるから、生徒が安んじて学校教育を受けるためには、学校設置者が生徒に対し安全配慮義務を尽くすことが必要不可欠である。
 (2) 学校教育の現場においては、生徒と日常的に接触している職員(校長または教頭である場合もあろうが、殆どの場合、原則的には教諭であろう。)こそが、教育を施す義務を履行する過程で、生徒に対する具体的な安全配慮義務をも履行できる立場にあるから、当該職員の行為が介在して始めて、学校設置者の安全配慮義務は万全を期すことが現実に可能となる。したがって、学校設置者の生徒に対する安全配慮義務は、校長のみならず、その監督下にある教諭を含む職員の全体をとおして具体化されるのである。
 (3) 要するに、学校設置者が生徒に対して負う安全配慮義務の履行は、第一次的(一般的)には、物的設備及び人的配置の整備充実によってなされるが、それをもって足りるのではなく、これを更に補充するものとして、第二次的に、生徒と日常的に接触している職員が、その教育活動を実践する過程で遭遇するであろう個々の危険から生徒を保護するため具体的状況に応じた方策を講じることによって、始めて万全たりうるから、学校設置者の支配、管理のもとに教育業務に従事する職員が、その実践過程で右業務に関連して生徒に対する危険の発生を未然に防止するために尽くすべき注意義務がまたとりも直さず学校設置者の負うべき安全配慮義務の内容となるというべきである。
 4 同一〇行目〈同一九行目〉の次に、改行して「前記のとおり、被控訴人が所属していたA高校のラグビー部は、同校生徒の自主的な生徒会活動の一環としての運動部の一つであるが、部としての成立には、生徒会の議決機関である中央委員会のほか職員会の承認を要し、顧問を置くことも義務づけられ、実際にもB教諭他一名の顧問がおかれていた。そして、本件事故が発生したのは、保護者のもとを離れ、A高校の学内にある合宿施設に寝泊まりしながら練習を繰り返す同ラグビー部恒例の、夏期休暇中の一週間に及ぶ合宿訓練中の過程で生じたものである。したがって、右ラグビー部の合宿訓練が正課の授業とはおのずから異なるものであるにしても、かかるクラブ活動がまた、学校教育活動の一環であることも否定できず、顧問教諭を始め、学校側に生徒を指導監督し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務があることはいうまでもない。そして、当該クラブ活動の訓練、練習が本来的に危険を内包するものであれば、その実施について、指導監督の任にあたっている顧問教諭としては、その危険性を十分注意し、もって、生徒の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務があるものというべきである。